第5話 旅

 スーツケースに着替えやメイクポーチを詰める。

 荷物を広げ、一つひとつ指さし確認を行う。最悪財布とスマートフォンさえ持っていけば何とかなるだろうが、忘れ物は無いに限る。

「よし!」

 腰に手を当て一仕事終えたようにかいてもいない汗をぬぐう仕草に、ナツメさんから「何してるの」とツッコミが入る。

「旅行の準備だよ。トゥイッターで知り合った子とオフ会するの」

「おふかい……危ないやつじゃないの?」

 珍しく眉間にしわを寄せるナツメさんに、私は苦笑する。心配性のお母さんみたいだ。

「もー。大丈夫だって。事前に通話もしたことあるし、付き合いの長い子だから。お土産買ってくるね!」

 スーツケースを閉じ、リュックサックを背負う。

 いざ行かん! とドアノブに手をかけたところで、言い忘れていたことを思い出し後ろ向きでナツメさんの前まで移動する。

「ナツメさんの世話、兄貴に任せたからよろしく! お母さんじゃ多分怖がるからさー」

「兄貴……?」

「うん。もうすぐ帰ってくると思うー。んじゃね! 行ってきまーす」

「行ってらっしゃい」

 ナツメさんの声に見送られ、私は家を出た。

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