第81話 東京支社へ

『ちょ、ちょちょちょちょ……ちょうどいいです! 井上純さんも是非東京支社に……』

「え? 僕もですか?」


 純ちゃんは打って変わって、下山さんの発言に驚いているようだった。

 確かに、純ちゃんにも何かあるのかな?


『あ、いや、その……い、いいいいい、井上さんにも渡したいものがあるんですよ!』

「……僕に?」


 なんと、純ちゃんにも渡したいものがあるそうだ。

 それを聞いた瞬間、純ちゃんの表情が若干緩んだように見えた。


『と、とととととと、とりあえず! い、いいいいいい、今すぐ来てください! う、受付には、「下山に呼び出された」と仰っていただければ……あ、ていうか、私、受付まで行きます! と、とにかく来てください!!』

「は、はい!」


 電話を切り、私たちはすぐに準備を整えた。

 ……靴を履き、外へと出ようとした……その時、純ちゃんは私の腕を引っ張った。


「あの、美羽さん」

「な、なに? 純ちゃん」

「その……下山さんとは、そういう関係ではないですよね? あくまで仕事の関係……ですよね?」


 いや、純ちゃんまだそれ気にしてるの? もう……子どもなんだから。


「大丈夫、そういう関係じゃないから」

「そ、そうですよね……良かった……」


 純ちゃんは安心した表情で胸をなでおろした。

 全くもう……。


「さ、行こ!」

「はい!」


 私たちは手を繋いで、部屋を後にした。



 純ちゃんの家からセンテンドー東京支社までは、それほど距離も無く、徒歩で行ける距離だった。

 東京支社に着くや否や、入り口で下山さんが出迎えてくれた。


「あ、ききききき、来ていただき、あ、ありありありあり……」

「いや、下山さん、落ち着いて……」


 下山さんは案の定、緊張のせいか、何度も頭を下げた。

 しかも、私と初対面の時みたいな感じで……いや、その時よりも動揺してない?


「下山さん、初めまして、井上純です、改めてよろしくお願いいたします」

「あ、よ、よろしくお願いします! し、下山直美でしゅ!! こ、これ、めめめめめ、名刺……」

「あ、どうも……」


 下山さんは咄嗟に名刺を出し、純ちゃんに手渡した。

 どうやら今回は忘れなかったらしい。

 ……なんか、目が凄い泳いでるけど……。

 もしかして、初めて純ちゃんに合ったから緊張してる? でもここまで動揺するかな? ……それくらい純ちゃんは凄い人……ってことだよね? だったらなんか嬉しいけど。


「そ、それじゃあ……こここここ、こちらへ……」

「あ、はい!」


 下山さんに案内され、私たちはエレベーターに乗った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る