第77話 らしくない

「僕が覚えているのは……ここまでです」

「そんなことが……」


 今の話……本当だったら、相当やばいじゃん!


「そ、それじゃあ……今のこのダンジョンの現象も……」

「はい、全て……あの社長が起こしたことです」

「そんな……まるで漫画みたい……」


 今起きている事……全てが……ゲーム?

 あまりに壮大過ぎて……ちょっとついていけないかも……。


「僕……怖いです、僕は……あの力に圧倒されてしまった……打ちのめされたんですよ」

「……」


 純ちゃんが恐怖を感じるほどか……。


「僕は……もう……ダメかもしれません……人生……あきらめも重要ですよね? 美羽さん……」


 純ちゃん……。

 私は純ちゃんの言葉に何も言えなかったが……少し、引っかかることがあった。

 私が今まで見てきた純ちゃんは、どんな敵が現れようとも果敢に立ち向かっていた。

 苦手だと言っていた絶叫マシンにも、恐怖を感じつつも覚悟を決めて乗り込んでいた。

 今の純ちゃんは……らしくない。

 私は思わず……純ちゃんを思いきり抱き締めた。


「……みみみみみみ、美羽さん!?」


 純ちゃんは、私の突然の行動に驚きを見せていたが、私は純ちゃんを抱きしめると空を緩めなかった。


「純ちゃん……今の純ちゃん、なんか違うよ」

「……違う?」

「うん……私の知ってる純ちゃんは……どんなモンスターが出てきても……どんな恐怖に直面しても……果敢に立ち向かってた」

「……」

「だから……今の純ちゃんは……純ちゃんらしくないよ」

「……」


 ……純ちゃんは、黙って聞いていた。

 ちょっと……言い過ぎたかな?

 まぁ、当然か……会ってまだ数週間しかたってない人間が、色々言うなんて違うよね……。

 私は訂正しようとした……その時。


「……美羽さん!!」

「じゅ、純ちゃん!? って痛!?」

「あ、すみません……」


 純ちゃんは私に抱き着こうとして……頭をごっつんこしてきた。


「だ、大丈夫ですか!?」

「う、うん……そ、それより……ごめん、私ったらなんか図々しい事を……」

「い、いえ! そ、それよりも……ごめんなさい!」

「……え? いやいやいや! 頭なんか下げなくていいから!」


 純ちゃんは……突然、深々と頭を下げた。

 頭を上げるよう肩を叩くも、純ちゃんは頭を上げることは無かった。


「僕ったら……美羽さんの言う通り、らしくなかったですよね!」

「い、いや……」

「今の僕のこんな姿……僕の視聴者さんが見たら……幻滅しますよね」

「……」


 私は……何も言えなかった。

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