第34話 センテンドーランド
「え、ちょっと……美羽さん?」
純ちゃんと向かい合わせになり、私は安心させようと、純ちゃんを抱きしめた。
……少し恥ずかしかったけど、これは純ちゃんの為だ……うん。
「大丈夫だよ! 今日はずっと私が一緒だから!」
「み、美羽さん……」
「死にはしないよ! それに純ちゃんはずっと危険なダンジョン配信をしているわけでしょ? それができるなら、絶叫マシンだって怖くないよ!」
「み、美羽さぁぁん……」
純ちゃんは感極まって涙を流し、私を強く抱きしめた。
私は少し驚いてしまったが、赤子を撫でるように純ちゃんの背中を摩ってあげた。
どうやら相当怖いらしい……この後、大丈夫かな?
「さぁほら、早く出よ、エスコートしてくれるんでしょ?」
「グス……はい……行きましょう……」
純ちゃんは腕で涙を拭い、再び私をエスコートし始めた。
☆
着替えを終え、私たちは「センテンドーランド」へと足を踏み入れた。
入り口にはセンテンドーのゲームのキャラクターたちがお出迎えし、入り口に大きく『Welcome To SENTENDOH LAND』と歓迎を意味するネオンサインが掲げられていた。
時刻はお昼を少し過ぎたくらい、通常ならば平日でも客がごった返すのだが、今日は私たちの貸し切りで、係員以外の人影は見えなかった。
「……よし、じゃあ純ちゃん、用意は良い?」
「……はい」
純ちゃんは覚悟を決めたのか、自らの頬を数回叩き、気持ちを切り替えたように見えた。
じゃあ配信スタートとしますか。
私は携帯に向かってライブオンと唱え、バーチャルチェンジャーに差し込んだ。
『百地美羽、ライブ、スタート』
音声と共にドローンカメラとコメント欄が出現し、私は百地美羽へと変身した。
「はーい皆さん! こんみうー! 純ちゃんのチャンネルからの人はこんみうアゲイン! 百地美羽です!」
「い、井上純……です」
純ちゃんはやはり緊張しているのか、いつもの元気一杯の挨拶とは違い、小さい声でボソボソと挨拶した。
『こんみうー、なんかイノジュンテンション低くね?』
『イノジュンのテンションがさっきと明らかに違くてなんか笑う』
『純様体調悪い?』
コメント欄は純ちゃんを心配する声で埋まっている……まぁそりゃそうだ。
ここはフォローを入れておこう。
「はい! 前回に引き続きドローンカメラの性能アピール配信です! 私たちは今、センテンドーランドへ来ています! ねぇねぇ純ちゃん、センテンドーランドと言えば?」
「ぜ、絶叫マシン……です」
「そうそう! 実はね、さっき純ちゃんとそのことを話していたら……何と衝撃事実! 純ちゃんは絶叫マシンが苦手みたいです! かわいいよね?」
「い、言わないでくださいよぉ……」
うん、ここは純ちゃんをイジって何とか凌がないと……。
ずっとテンション低いまんまだとあらぬ噂を立てられかねないし……。
『イノジュン絶叫マシン苦手なの? 意外過ぎる』
『草』
『ずっとスリル満点なダンジョン潜ってるやん』
『イノジュン、モンスターよりも絶叫マシンが苦手』
『純様かわいい! ¥5000』
私の予想通り、コメント欄が爆速で動き始めた。
よし、この調子でどんどん行こう。
「はい、そういうわけなので、前回は純ちゃんがダンジョンの脅威から私を守ってくれたので、次は私が純ちゃんを守りたいと思います! 頑張ろうね! 純ちゃん!」
「が、がんばります……」
純ちゃんは顔を真っ赤にし、下を向いてしまった。
今の純ちゃん、女の子らしくてかわいい……私は自然と口角が上がった。
その後、少しだけトークをした後、手を繋いで入場ゲートへと入った。
『美羽ちゃんニッコニコやん』
『純様頑張って!』
『今度は嫁が旦那を守るのか』
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