第33話 苦手
「よし! それじゃあ、戻りましょうか、美羽さん」
「うん」
そして、純ちゃんは私の手を掴み、出口へとエスコートを始めた。
「純ちゃん、商品の宣伝上手いね、私そういう経験はもう何年もやってないから忘れちゃってたよ」
「いやいや、僕も最初の頃は美羽さんみたいな感じでしたよ、よく会社からも怒られましたよ、『こんな不愛想な宣伝で売れると思いますか?』って」
「あはは、センテンドーも結構言うんだね」
「そりゃもう、向こうも商売ですから」
怒られる純ちゃん……あんまり想像できないな。
私の目で見る純ちゃんは、何でもできる完璧超人だ。
そんな純ちゃんも、失敗を重ねて、ここまで来れたんだな……。
「そういえば純ちゃん、この後遊園地で配信だけど、乗りたいアトラクションとかある?」
「そ、そうですねー……どういうのがあるんでしたっけ?」
「確かセンテンドーランドと言えば、絶叫マシンだよね、4種類くらいジェットコースターがあるんじゃなかったっけ? 『振り飛車』とか『FUJISAN』とか……」
「そ、そうなんですか……」
あれ? なんか純ちゃん……声震えてない?
「どうしたの?」
「あ、いや……別に……」
……まさか。
「純ちゃん、もしかして……」
「い、言わないでください! 言いたいことは……わかりますから」
……やっぱりか。
「ジェットコースター苦手?」
「……はい」
純ちゃんは下を向きながら気のない返事をした。
「意外だね、純ちゃんって怖いものとかないものだと思ってた」
「いや、僕にだって怖いものはありますよ! ジェットコースターって下手すりゃ死ぬかもしれないじゃないですか!」
「いや、貴方ダンジョン配信者だよね!?」
ダンジョン配信の方が死ぬリスク高くない? ジェットコースターって安全バーとかあるからそっちの方が安心だと思うんだけど……。
「ぼ、僕……小さい頃、弟にせがまれてジェットコースターを無理やり乗せられて……それ以来トラウマなんですよ……」
あー、なるほどね。
確かに小さい頃の恐怖体験って頭の中に残るものだ。
「だから今日、遊園地の配信の前にダンジョン配信して気を紛らわせようと思って……ほら、それもドローンカメラの宣伝になるじゃないですか」
「それはそうだけど……そんなにジェットコースター嫌なの?」
「……はい、お恥ずかしながら」
純ちゃんの顔は、ここから見ても真っ赤だった。
以外に恥ずかしがりやな一面もあるんだね、純ちゃん。
まぁでも怖いまんまだと配信の時支障が出そうだし、ここは安心させようか。
私は純ちゃんの腕を手繰り寄せ、こちらに顔を向けさせた。
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