決裂


「今日はありがとう

 埋め合わせはまた後日ちゃんとする」

「そこまで気にしなくてもいいのに…

 変人だねアーノルドは

 ウィル君もありがとねアイリスもちょっと楽しかったって、ね。」


 そう言ってアイリスの方を見ると小さく頷いている。

 俺も一応ぺこりと小さくお辞儀をする。

 雨が降る中での帰り道だ。止んでから帰ったらどうかと聞くが、急に呼んだこともあってか次の日には予定が入ってしまっていたそう。


「じゃあ、元気でまた会いましょう」


 そう言うととてつもなく速く移動していった。

 俺はさっさと家に戻るよう促される。

 最近というか急に外に出してくれなくなった、俺がもしかしたら悪いことでもしてしまったのか、それとももうハンターとしては見放されてしまったのかとマイナスな考えばかりが思いついてしまう。



「なんで外に出ちゃいけないの?」

「今は外がモンスターが沢山いるらしくて、中には強いモンスターがいるから、落ち着いてから外での特訓は始めようか」

「分かった」


 俺は少しテンション低めに返事をする。

 それを感じ取ったのか、父はなんとも言えない表情をする。何か文句があるなら言って欲しい。

 今の状況なら俺に負ける理由が見当たらないからな。

 

「何か言いたいことでも?」


 俺はとても若干9歳の子供が使うような煽りを含んだ言い方をする。

 これが出来るのは、優しい父だからこそだ。

 しかしこれに良い反応をしてくれなかった。

 なんならすぐに折れてしまった。

 なんか、つまらなかった、せっかく楽しい人生を歩めると思ったらモンスターピアレントで自分で選択しようにも親に止められ理由も特に言えないなんてたまったもんじゃないよ。


(明日にでもこっそり外に出るか)


 俺はそう考えていた。




 翌日、


「……ん、もうこんな時間か悪いなウィル今から朝ご飯作るから待っててくれ」


 いつもなら間違いなく起きている時間、なのに返事をして来ない事に違和感を感じた父だったが、寝過ぎたから取り敢えず焦って朝ご飯の支度をする事にした。


 1時間後

 父はご飯を作り終えた。

 昼が近い時間の朝だったから時間もたいしてかからずに出来た。

 父が作ってる間に起きて来なかったのは流石におかしいと部屋をそっと開けると、俺の姿は無かった。


「ウィル、ウィル!!

 何してんだウィル、どこに行った…もしかして」


 何かを勘づいたのかすぐに着替えて、パンを一枚ペロリと食ってもう一枚は外に出て走りながら食べる。

 37の男には少し恥ずかしさもあるが息子の為にそんな事言ってる場合では無い。

 

「いつかはとか思ってたけど翌日かよ、油断した!」



 そう、俺は予定通り外に出ることに成功した。

 というか、モンスターなんていないじゃん。

 やっぱり俺のこと諦めてたんだ父親として応援するんじゃなかったのかよ、やっぱり俺には絶望的な才能しか無かったのかよ。

 俺は少し父にムカついたがそれ以上に無力の俺に怒りを覚えた。


「それよりこれからどうするか、行くあても無いし、やっぱり異世界なら1人で稼いで暮らしてなんぼってもんか」


 まだ俺は頭の中がお花畑だった。

 死に際で俺の潜在していた隠しスキルが顕現して最強に成り上がって、母からも父からも手のひら返し、だが、もう遅い。

 新たな力を手にした俺は新たな最強の仲間と8度目の人生を謳歌します。

 なんて自分に都合の良い事ばかり考えていた。

 毎回の転生で懲りずに今回は、今回こそは覚醒してとか想像してる。

 するはずが無いのに、人生にご都合なんてない。

 結局は自分がアクションを起こすんだ何事もそこから始まる。

 だから、父が外に出るのを止めたのもイベントの内の一つ「過保護の檻」

 それにいち早く気づいた俺には何か新イベントが、、



「ねえ君、ユイナの子供、、ウィルで合ってる?」


 ユイナ、母親の名前だ。

 あまり聞いた事も言った事も無かったから最初は誰?ってなったけどウィルと言われてまあ合ってるだろうとなった。


 (新情報 本名はウィルフレッド=ユースメルグです。)


「多分合ってます」

「良かった、ちょっとついて来て貰えるかな」

「え、何かありましたか?

 貴方は誰ですか」

「私ですか…

 私は名を名乗る必要はありません。

 もう会う事もないのですから」

「それはどう言うことですか?」

「大丈夫です

 私はウィルを母親のとこまで連れて行くのが役割なので

 特に気にすることなどありませんよ」


 俺はこの時に少しは気づくべきだった。

 と言うか、こいつは恐らく何か特殊な魔法を使っている。

 俺の思考判断が明らかに低下している。

 普通に考えればおかしなことだ。

 元は俺のせいで出ていった母が俺に会いたいなんてそんな事は無い。

 しかしそれに気づくのにはもう十分近く経ってしまった。

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