第16話 ノンプレイヤーを考えよう


「ダンジョンの中で弁当を売るキャラが必要だよなぁ」


 モニターを眺めながら高橋は考える。ちょっとふくよかな体型の商人風のキャラもいいが、それではダンジョンの中での癒しにならない。石人形は可愛いけれど、この世界ではゴーレムと呼ばれ恐れられているらしい。宿屋の従業員が全てゴーレムであったとしても、流石にダンジョン内部で出会ったら、驚かれるに違いない。


「そうなると可愛い女の子キャラかな。ケモミミでドジっ娘属性とかいいんじゃないかな」


 高橋がそう呟けば、モニターにウサギの耳を生やした女の子が現れた。


「うーーん、ビジュアル的にはうさ耳サイコーなんだけど、後ろ姿はネコ娘の尻尾萌えなんだよなぁ」


 ネコ耳娘と並べてモニターに映し出し、前後左右をくるくると回転させて高橋は考えた。しかしながら、このケモミミについては日本のオタク文化である。この世界でケモミミを語る前に、もしかすると獣人が嫌われているかもしれないし、魔物にその手がいたらゴーレムより恐れられるかもしれない。そんなわけで高橋は石人形に意見を求めようとした。すると、とんでもない答えが返ってきたのだ。


『主、残念ながらこの世界に獣人は存在しません』


 その瞬間、高橋の楽しい萌えライフが音を立てて崩れていった。


「な、な、な、なんてことだ」

『それに、魔物は全て動物が魔素によって変化したものです。ですから基本的に4本足になりますね。例外は昆虫や蜘蛛ですが』

「そ、そんなぁ」


 高橋は頭を抱えた。異世界なのに、剣と魔法の世界なのに、獣人がいないだなんて何たることだ。だがしかし、天啓を受け高橋は復活した。


「それじゃあやっぱり!」

『もちろん、エルフもドワーフもいませんよ』


 ふたたび高橋は倒れ込んだ。ダメージは蓄積され、さらに重複したことにより倍増していた。


「そ、そんな……エルフもいない?美人で巨乳なエルフがいないなんてファンタジーじゃない。俺は……そんなこと、認めないぞぉ」


 ゾンビのように復活した高橋は、モニターを凝視した。可愛いうさ耳獣人とネコ耳獣人が並んでたっている。ケモミミは正義である。ケモミミがいない世界だなんて異世界じゃない。そんなの間違っている。高橋は決めた。もう、決めたのだ。


「俺のダンジョンにはケモミミが住んでいるぅ」


 そう叫ぶと高橋はうさ耳娘を巨乳にして髪型をサラサラストレートロングにした。白いうさ耳が映えるように髪色は黒だ。なにかのカフェの制服のようにおっパイを強調するデザインのメイド服を着せて、スカートはフレアのミニにする。ネコ耳娘はこっぱいだ。金に近い茶髪に黒い耳で手首から先だけを猫の手にする。シッポは長い。


『主?これは一体』


 石人形が不安そうにきいてきたが、ゾーンに入った高橋には聞こえない。


「もちろん女性にも萌が必要ですからぁ、ケモミミショタっ子はキツネ獣人で決まりでしょう」


 モニターに5頭身ぐらいの男の子を映し出し、頭にはフサフサの毛の犬っぽい耳をつける。おしりにもフサフサのしっぽをつけて、可愛いショタっ子の出来上がりだ。もう1人、猫獣人のショタっ子は甘えん坊のツンデレ属性にする。


「ふふふふ、お姉様のハートを鷲掴みだぜ。ダンジョンに癒しを!」


 モニターを見つめる高橋はサングラスの司令官のように呟いた。


『主、そうしますと販売する弁当というのは?』


 石人形が何とかスキをついて話しかけてきた。高橋があまりにも暴走するので、とりあえず静観していたのだ。


「すた丼はニンニクの効いた甘辛い醤油ダレのかかった焼豚がのったどんぶりだよ。唐揚げ定食を弁当にするのに、うーんそうだなぁ。チキン南蛮だ!唐揚げに甘辛いタレを絡めて上にタルタルソースをかける。絶対美味い!俺ならオカワリする」


 高橋の言うことを石人形は頷きながら聞いている。


「タルタルソースを作るのに卵が必要だからな。石人形、コカトリスに卵を産ませて黄身がオレンジ色だと色合いが綺麗になるから食紅の花を食べさせてくれ」

『食紅……花ですか』


 石人形はしばし考え込んだが、答えが見つかったのだろう。


『了解しました。主』


 軽快に返事をしてくれた。


「そうだ、弁当の容器について考えなくちゃ。この世界にプラスチックなんかないもんなぁ」


 うーんと考え込む高橋であったが、さすがにダンジョンならなんでもあり。なんてことにしてしまうと、弁当の空き容器を持ち帰られたら大事になってしまう。


「そうだ油紙」

『油紙ですか?』

「そう。木の皮で容器を作って、内側に油紙を敷くんだよ。そうすれば汁が漏れることを防げるだろう?」

『素晴らしいアイデアです。主』


 石人形は外にいる仲間に連絡を入れた。容器を作るのに木が必要になる。冒険者や一般人を乗せた馬車が来るようになるから、馬車を止める場所をもう少し大きく取った方がいいだろう。それから食事のスペースも足りなさそうだ。ウッドデッキを作り森を眺める仕様に変更だ。高橋の頭の中にある森の中のカフェは、軽井沢の白樺の森の中にあるログハウス風の建物だ。その情報を石人形たちは共有し形にしているのだ。


「ダンジョンの中にメイドカフェを作るのも面白そうだな。モンスターハウスと思わせておいてのメイドカフェ」


 そう言いながら左側のモニターを操作する。先程作ったケモミミ獣人を色違いで配置して、飲み物はエナジードリンクだ。これで冒険者たちたちのマジックパワーが全回復して疲れも取れる。


「ここで使えるお金はダンジョンで稼いだお金だけにしよう。入りたかったらモンスターを倒してもらおう。当然スタンプカードは必須だよな。10個たまったら萌え萌えオムライスプレセントだな」


 高橋はウンウンと頷きながらメイドカフェの設定を盛り込んでいく。ここまで来ても、ダンジョンはまだ20階までしか出来上がってはいなかった。お試しダンジョンでどこまでひっぱるつもりなのだろうか?


「ああ、そうだ石人形」


 高橋は思い出して石人形を呼んだ。


「なんかさぁ、外にいるギルドの人たち、ダンジョンを調べているんだろう?」

『はい、そうです』

「できるだけトラブルは避けたいから、ダンジョンの掟を作ってみたんだ」


 そう言ってハンツ箇条書きが並んだ紙を見せてきた。石人形はそれを手に取り読み上げた。


『一つ、ダンジョン内で他人を傷つける事を禁ず

 一つ、ダンジョン内で他人のものを盗むことを禁ず

 一つ、ダンジョン内で死亡した場合手に入れたアイテムは全て失う

 一つ、ダンジョン内で死亡しても外に放出されるだけである

 一つ、ダンジョン内に貨幣の持ち込みを禁ず

 一つ、他人に性的な嫌がらせを禁ず

 一つ、ダンジョン内の1日は24時間とする

 一つ、ボス部屋は1組ずつ挑戦すること

 一つ、ダンジョン内の施設及び関係者を傷つける事は許されない』


 石人形は読み上げると深く頷いた。


「それではこれを外にいる冒険者たちに配ってきましょう。もちろんダンジョンの入口にも貼っておきます」

「ああ、よろしく頼むよ」


 ひと仕事終えて高橋は椅子の背もたれに全身を預けた。


「あ、俺のメシ」


 あれこれ考えていると時間の経つのが早いものである。締め切りのない仕事をしているから、石人形たちも急かしてこないのも、たちが悪い。


「メイドカフェとか考えてたからオムライスが食べたくなったよ。トマトケチャップが作れたからここはやっぱりオムライスだよな」


 魔法のある世界はとても便利で、炊いたご飯も貯蔵庫に入れておけばふっくらとした状態をキープ出来てしまう。


「ツナおにぎりも作りたいから、なんかそれっぽい魚を取ってきてもらおう。それとコカトリスの卵、白身はパンケーキに使えばふわふわ度が増すよな」


 そんな高橋の独り言は、しっかりと石人形立ちに共有されているのであった。

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