第3話 初めてのお客様?

『あるじー』


 ダンジョン50階に設定した自分の住む村をゆっくりと散策していたら、石人形がものすごい勢いでやってきた。気の所為でなければ若干飛んでいたような気がしなくもない。


「ありがとう」


 部屋に戻るよう服を引っ張られたから、高橋は少しだけ小走りで部屋に戻りモニターの前に座った。


「おお、冒険者」


 中央のモニターに映し出されたのは見まごうことなき冒険者であった。冒険者を映し出しているのはダンジョンの入口担当の石人形だ。2体の石人形は、石の門のくぼみに上手い具合に座っている。そうして大体立っている人間の目線の高さぐらいの位置となり、辺りの様子を確認しているのだ。冒険者の後ろに見える宿屋にも従業員の石人形が配置されているが、そちらには誰も客が来ていないようだ。


「これは、ダンジョン……なのか?」


 冒険者がそっと手を伸ばし、石の門をつつく。触った感じは完全に石だ。そこに掘られている文字は【お試しダンジョン】それを読んで首を捻る。


「なぁ、ここ見てくれよ」


 後ろにいる仲間に声をかけた。


「どうした」


 呼ばれてやってきた冒険者も似たような格好をしている。


「ここ、見てくれよシン」

「どらどら」


 シンと呼ばれた冒険者は指さす辺りに目線を動かす。そうして掘られた文字を読み上げる。


「お試しダンジョン?どういうことだ?」


 読めたものの意味が分からない。2人が首を捻っていると、シンの声に反応した石人形が動いた。


 『ようこそーダンジョンにーはーいられまーすか?』


 石人形は一応フレンドリーに片手をあげて見せた。顔の大半が目玉なため、表情はほぼないが、それも目玉の下には小さいながら口が着いている。


「「しゃ、喋った」」


 石人形が動いて喋ったのを見て、2人の冒険者はバッと後ろに下がった。戦闘態勢では無いが、いつでも対応できるよう、腰の武器に手をかける。シンは長剣でもう1人は大剣だ。


『おおーわたしはーモンスターではあーりませんよーこのダンジョンのーあんないをーおおせーつかっておりますー』


 どこか間延びしたような、不思議な喋り方をして石人形が2人の前に降り立った。


「「ダンジョン……」」


 2人が声をそろて口にすると、石人形は深く頷いた。


 『こちらはーわがあるじがーおつくりになられたーダンジョンでごさいまーす。できたてほやほやでごさいまーすのでーはじめてーのちょうせんしゃーをぜっさんぼしゅうちゆーでございまーす』


 石人形がそう説明すると、2人は目線でやり取りをした。


「どうするアレク」

「そりゃ、初物なら発見者に権利があるからな」


 冒険者のルールで、ダンジョンの第一発見者はギルドに報告する前にダンジョンに挑むことが出来る。ただ、それにより命を落とすようなことがあっても自己責任ではあるけれど。


 『おおーいどまれますかー』


 石人形が、期待に満ち溢れた顔?で2人をみた。


「そ、そりゃもちろん。新しいダンジョンは見つけた冒険者に、ファーストアタックの権利があるからな。見つけたお宝も当然冒険者の物になるわけだし……」


 なんて言いつつも、シンは目の前にいる石人形が気になって仕方がなかった。石人形なんて言うけれどそれはつまりこの世界においてはゴーレムと呼ばれるものだ。魔法使いが作り命を吹き込む物で、作った魔法使いの命令通りに動くのだ。だがしかし、辺りに魔法使いがいる様子は無い。


「入ったら出られない。とか、そんなこと、あるか?」


 恐る恐る目の前の石人形に尋ねるアレク。


 『だーいじょーぶですーこのダンジョンはーおためですかーらーいっかいごとにーだっしゅつのまほうじんがせつちされてまーすー』


 石人形はそう言ってアレクの前にカードを出てきた。


 『そしてーこちらのカードはーダンジョンにいどまれーたかたのーじょうほうがーひょーじされまーすー10かいいどむーごとにーすてきなーけいひんをープレゼントいたしまーすー』


 思わずアレクは差し出されたカードを手に取った。するとそこにアレクの名前が浮かび上がった。


『ごしんばーいなーくーカードはーおひとりにつきー1まーいかぎりーなくしてもーかならずーおてもとーにもどりまーすーおためしダンジョンはーぜんぶでー10かいそうでーすー5かいとー10かいにーボスがはいちーされてまーすー』


 石人形の説明を聞いてアレクは何度も頷いた。少し後ろに立つシンはアレクの肩に手を置いて一緒に説明を聞いている。


 『いどんだーかいそうもーカードにーきさいされまーすーごあんしーんくださーいさらにーこちらのーおためしダンジョンでーはーちからつきてーもしぬことはありませーん』


 そう言って石人形はクルクルと回りシンにもカードを手渡してきた。


『ただーしーちからつきるとーそれまでてにしたおたからはーなくなりますー』


 それを聞いて2人はバッと顔を見合わせた。そんなダンジョン聞いたことがない。死なない?死なないダンジョンなんていままでなかった。これはもう挑むしかないだろう。しかも挑んだ回数でアイテムが貰えるなんてありえない事だ。2人は石人形から渡されたカードを確認した。そこにはまだ名前しか記されてはいない。

 死なないというのなら、挑むしかない。最悪1階だけでも探索して脱出の魔法陣から帰ってくればいいのだ。この手にしているカードに本当にそんな機能が着いているのか確認するのなら、それでいい。2人は目を合わせ頷づいた。


「「挑ませてもらうぜ、ゴーレム」」

『2めいさまごあんなーい』


 石人形はそう言うと、2人の背中を強く押した。シンとアレクは仲良く石の門をくぐりぬけた。何か柔らかいものを抜ける感触が全身にあって、目の前の景色が森からぐにゃりと変化して一瞬真っ暗になり、ドンと足を踏み込んだら周りの景色が変わっていた。


「「草原?」」


 2人が手にしていたカードはいつの間にかに無くなっていた。後ろを振り返ってもそこには石の門はなく、広い草原があるだけだ。


「あれ、スライムだよな?」

「ああ、ツノウサギもいるぞ」


 ゆっくりと移動すれば、浅い川が流れ大きな石がいくつかあった。見晴らしのいい草原ではあるが、安全確保のためにその石に登ると真下に赤い宝箱が見えた。


「おい、シン」


 アレクはまだ石に登っていないアレクをそのまま反対側に移動するよう促した。


「アレク、こりゃあ……」


 反対側に回ったシンは赤い宝箱を難なく見つけ、ゆっくりと蓋を開いた。中には銅貨が3枚入っている。


「マジか……」


 宝箱からシンは難なく銅貨を取り出し上にいるアレクに見せた。そうして2人の頭には先程の石人形の説明が蘇る。死ななければ無くならない。


「シン、後ろっ」


 石の上から眺めていたアレクは、浅い川の水に紛れて動くスライムが光って見えた。


「おおっとぉ!」


 シンは振り向きざまにスライムを切り倒した。そうするとスライムは消滅して、魔石の代わりに鉄貨が1枚地面に落ちた。


「……すげえな」


 その現象を見て2人は喉を鳴らした。ぶっちゃけスライムから取れる魔石なんて小さい上に大した魔力もないから100個ぐらい集めないと買取額が出てこないし使えないのだ。だがしかし、鉄貨とは言えど金が出てきたのだ。これは狩るしかない。スライムの魔石を100個集めてもこのドロップには匹敵しない。


「あそこに光ってるのがおそらく魔法陣だよな?」

「ああ、そうに違いない」


 川をたどって目線を動かすと、巨大なスライムが見えたが、こちらにやってくる様子は無い。その後ろに透けて見える赤い宝箱があるが、どう考えても罠だろう。お試しダンジョンというのだから、1階から色々な仕掛けが施されていると思った方がいい。焦ることは無い。入場料を取るなんて一言も言ってはいなかった。挑んだ回数に応じてアイテムをくれると言っていたでは無いか。


「「行くぜ」」


 2人は声を上げて草原を走り出した。もちろんツノウサギもスイムも見つけ次第切り倒し、光る魔法陣に向かうのだった。


 『あるじーいいかんじにごさいまーす』


 石人形がもう一体の石人形を通して声をかけてきた。ようやくダンジョンに客がやってきたのだ。高橋はモニターを眺めながら熱いお茶を口にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る