第37話 数学への挑戦とバッハとグールドへの開眼
ポッシュは麻布時代には代数も幾何も定期試験では90点をキープしており、数学は得意科目のつもりだった。しかしリーダーとフィロソファーには、歯が立たなかった。例によってリーダーが自分の得意なものを共通テーマにしたがり、数学への挑戦も始まっていた。 『大学への数学』という雑誌の難問を解くのだが、ここでポッシュの数学への自信は消え失せた。リーダーの解説をフィロソファーは理解するどころか、さらにこうなのではないかという解釈を投げかけた。B.Y.G.では2人の議論が延々と続き、置いてけぼりにされてしまったプリティとポッシュは、所在なさげにタバコをくゆらしていた......
フィロソファーはIQが相当高いようで、後年東大文Ⅰに合格後、通常は司法試験組か公務員志望組に分かれるのだが、なんと、どちらにも属することになる。そして公務員1種試験に全国7位で合格すると共に、司法試験の1次試験も突破する、2次は通らなかったが。麻布時代はあまり知られていなかったが、実はスマートに並ぶ優秀な頭脳の持ち主だった。勉強をしなくてもある程度の成績は取れると噂のポッシュだが、実は物理と化学はボロボロだった。しかしスマートやフィロソファーのレベルになると、苦手な科目などはなく、ポッシュの得意科目においても、もっと上をいっていた!こうしてポッシュのIQへの自信も、少しだけだが、揺らいだのだ。
他にはプログレや漫画、文学なども話題になったが、フィロソファーは詩が好きだったので、ポッシュも生まれて初めて詩を読むようになった。だけどプリーストらがハマっていた哲学同様、馴染めなかった。フィロソファーの好きな詩人はポッシュが前世を生きた国を併合した敵国や自由と革命の国の詩人だったので、翻訳者を通しての作品だというのも抵抗があった。詩よりも俳句や短歌の方が美しいと感じ、叔父がハマっていた名作漫画『摩利と新悟』の影響もあったのか、ようやくこの国の文化の素晴らしさに気付けたのだ。
フィロソファーからの影響としては、詩よりもクラシック音楽がある。彼はクラシックに造詣が深く、特にバッハの大ファンだった。ポッシュは麻布時代にすでにロックやジャズだけでなく、フランクやフォーレなどのヴァイオリン曲、リスト、シューマン、ショパン、ドビッシーなどのピアノ曲には詳しかった。好きなピアニストはアルゲリッチやポリーニ、ヴァイオリニストはグリュミオー、スークのような叙情的な演奏家で、自然とロマン派を好んでいた。フィロソファーもピアニストに関しては同じ趣味だったが、加えてバッハ弾きのグールドを紹介してくれた。彼の半ばジャズのような即興性とオリジナル曲を勝手に解釈して変えてしまう自由奔放さは、正に麻布学園屋上部そのものだった!こうしてグールドがポッシュの最もお気に入りとなった。
さらにその講義は続き、オルガンとチェンバロという聴き慣れない楽器によるバッハも教えてくれた。それまでの帝国のグラモフォンレーベルに代わり、ポッシュの1番のクラシックのレコードコレクションは、同じ帝国でもアルヒーフレーベルのヴァルヒャやリヒターによるバッハが主体となっていった。これでもまだ終わらず、遂にはカンタータやマタイ受難曲という声楽曲まで聴かされると、「はい、参りました」と、答えるしかなかった。こうして、麻布時代にかじっていたクラシックの知識への自信も、数学同様に、木っ端微塵にされてしまった!
それ以降音楽の趣味は全世界の民族音楽へと広がっていくのだが、バッハが1番という彼の意見がポッシュの中で覆されることはなく、今日に至っている。このクラシックへの傾倒により、高校編で紹介したように、ポッシュは勉強におけるスーパーサイヤ人である「勉強脳」に、いつでも好きな時に変れるようになった。これも考えてみると、バッハを教えてくれたフィロソファーのおかげだった。
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