第35話 圧倒的に少ない女子と駿台文一のマドンナ

 当時の東大は文Ⅲに多少いるくらいで女子は殆ど存在せず、男子校のような雰囲気だった。映画『いまを生きる』に描かれている50年代のプレップスクールと同様、シェフやデザイナー、役者になるなど親から許されず皆が東大を目指す時代だったからだろう。

「Jr、お父さんの時代は東大の数学の入試問題は、文系でさえ制限時間内に出題される4問のうち2問を解ければ合格といわれていたんだ。高度な数学が受験科目となっていて、数学など左脳の才能も必要な東大に入学するには、右脳がより発達している女子には不利だったんだよ」

 出産に耐えられる女性は男性よりも痛みに強いと医師の友人に聞き、

「え、か弱そうな女の子が、実は僕たちより頑張れるの?」

 と意外に思ったことがあった。同様に、我慢が必要な受験勉強のための努力は男子よりも優れていたのだろう。だけど左脳なしに努力だけでは、その頃は東大のハードルを超えるのは難しく「リケジョ」という言葉はまだ存在していかった。

 そのため、早慶よりも入学が難しいといわれた「駿台予備校文Ⅰ」においても、女子はごく少数だった。その中に1人だけ美女がいたので、皆の憧れとなっていた。実はこのマドンナは、リーダーと同じ高校出身だった。彼女に一目惚れしたフィロソファーは、リーダーに声をかけてくれるように頼んだ。

「マドンナ?付き合いないんだよな~。性格きついけど、いいのかよ。しょうがねえな~」

 と言いつつ、予備校の後に自分の友人達と遊びに行こうと伝えてくれた。本当に世話好きの、麻布にはいないタイプのいい奴だった。



 新緑もまだ美しい5月、授業が早く終わった日に、4人組とマドンナは予備校を後にした。行先はリーダーとマドンナが通っていた高校のそばの公園だった。中には池もあり、橋で渡れる小島には弁財天が鎮座していた。男女でお参りすると嫉妬した弁天様の呪いで2人は別れるという、都市伝説があった。しかし5人だったので、気にせずに参拝した。公園には小さな動物園も併設されており、小動物と触れ合い、ボートにも乗った。マドンナとは、フィロソファーとポッシュが3人で一緒に乗った。フィロソファーに「ポッシュ、マドンナのこと、どう思っているの?」と聞かれれ、「友達の憧れの人になんて全く興味ないよ!」と答えた。映画や漫画を通じて幼少期から友情に憧れており、一生続くものだと信じていた、いや信じたかったポッシュは、その後も一過性に終わることが多い女子との恋愛よりも友情を大切にしていくようになる。

 こうして、不思議な5人グループが出来上がった。皆がマドンナをお姫様のように扱い、フィロソファーの恋が成就するように応援した。こうした状況では「代わりに俺が」などとしゃしゃり出てくる奴がいるのが常だが、邪魔をするような不遜な輩は一人も存在しなかった。そして、もちろんフィロソファーの魅力が一番の理由だが、3人の仲間の協力もあり、彼とマドンナはめでたく付き合うことになった。これこそポッシュが思い描いていた友情のあるべき姿であり、フィロソファー以上にというと言いすぎだろうが、幸せを感じていたのだった。


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