第34話 浪人編プロローグ 7科目が必要な国立と3科目だけでいい私立

 ポッッシュの通うことになった駿台予備校は、お茶の水にあった当時1番の予備校だ。屋上部のメンバーはアンクルやベビーフェイスらはお茶の水、プリンスやアフロは代々木と分かれていた。お茶の水屋上部メンバーは、まずはNARUという、駅の向かいのジャズ喫茶に集まるのが恒例だった。その後気が向けば予備校に行くこともあった。ポッシュはアンクルから誘われていたのだが、ベビーフェイスの反応が気になり、最初は通っていなかった。 

駿台では入学試験の成績により、クラスが振り分けられる。ポッシュは数学、国語、英語、理科、社会の5科目、正確にいうと文系ならば(理系は逆)理科は化学、物理、生物、地学から共通1次のために2科目、社会は2次試験の為に日本史、世界史、地理、政経、倫理社会から2科目の計7科目履修が必須の国立文系コースを受験した。国立コースには文系Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、理系もⅠ、Ⅱ、Ⅲとそれぞれ3つあった。最初から私立を狙う生徒は大学の学部により多少の違いはあるが、得意な3科目だけ勉強をすればよかった。文系ならば国語と英語、加えて社会から1つまたは数学のもう1科目を選択する。ポッシュの場合ならば、英語、国語に、得意の世界史または数学だけでよいことになる。

「最初から私立を目指していたら、麻布生ならほとんどが現役で受かるよ」

 というのは、どうもこのことのようだ。



 麻布生は基本的には東大を目指しているので、国立文系または理系コースに入る。しかし屋上部のメンバーの中には中学からついていけてなくそこからやり直すのは大変なので、得意の3科目だけに集中するメンバーもいた。こちらは私立文系あるいは理系コースとなる。高3最後の模試の合格率が東大文Ⅲで60%だったポッシュは、競争相手の多くが合格したため文系Ⅰ、その中ではEからHまであるうちのFクラスに配属された。そして偶然にも隣の席になったのが、フィロソファーだった。

 フィロソファーは柔道部所属のスポーツ部員だったが、プリーストやディレクターと哲学を議論しており、屋上部員とも付き合いがあった。しかしなぜか在学中は、顔を合わせなかった。彼はプログレや頭を使う少女漫画も大好きだったので、すぐに気が合った。そして、学大附属出身のリーダー、裏富士と葡萄で知られる県出身で高校時代はサッカーで県の選抜選手だったという可愛い顔をした巻毛のプリティとも知り合い、仲間となった。ポッシュにとっては、中学入学後初めての麻布以外の友達だった。こうしてNARUに通わずに、この4人組で遊ぶようになった。



 授業が終わると出かけたのは、ビリヤード場と卓球場だった。これは実はリーダーが得意だったからで、彼は自分が上手いものだけをやりたがる傾向があった。ビリヤードの技術は、アンクル並みだった。リーダーは麻布生と違って面倒くさがらずに進んで教えてくれるので、ポッシュには非常に意外だった。麻布生は、何事も自分で行うべし、という感じだったからだ。「やはり漫画にあるのが本当で、麻布が変なんだ!」と嬉しかった。彼のおかげで、ビリヤードの技術は飛躍的に向上した。僕に言わせれば、リーダーはただの教えたがりで、恐らく教わるのが嫌いなだけだと思ったのだが。

 卓球については、温泉でやるピンポンというイメージしかなかった。しかし、リーダーのおかげで、実は非常に奥が深く、結構運動量のあるスポーツなのだと初めて知った。イラスト付きの薄い教本を読んでドライブはすぐに打てるようになり、いつまでも打ち合っているのが快感になった。カットは苦手だったがスマッシュも決められるようになると、ますます楽しくなり、リーダーといい勝負ができるようになる。プリティも元ストライカーで運動神経がよく、すぐに上手くなった。

 そして、プリティもリーダーもお酒が飲め、タバコも吸っていた。屋上部が存在しない他校の生徒は、大人数ではなく少人数で不良をしていたようだ。NARUでは、オーバーオールや代々木に流れた屋上部員の代わりに、開成や駒東など他校からの不良を受け入れて、いつのまにか「駿台屋上部」というものが出来上がっていた。プリティやリーダー、フィロソファーも、ポッシュの復帰と共に後に加わることとなる。昼は卓球とビリヤード、夜は屋上部の溜まり場だった渋谷の道玄坂のロック喫茶B.Y.G.によく飲みに行った。こうしてまたしてもポッシュは、他の浪人生が必死で勉強をしているのを尻目に、「いまを生きる」道を選んだのだ。

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