第26話 双子の弟所有の「ベース破壊事件」と「いじめ」の始まり
しかし、「文化祭」後には返却する「約束」となっていた「弟のベース」が、返ってこなかった。「ベース、いつになったら戻ってくるんだよ!」と叔父から催促され、ポッシュはアルルカンバンドのメンバーを見かける度に尋ねた。
「いつ返してくれるの?」
「分かった、分かった、『新曲の練習』をしたいからもう少し貸しておいてよ」
という『話』だったのが、いつの間にか『言うこと』が変わってきた。
「ああ『あれ』ね、なんか『スキー部の部室』に置いておいたら、いつの間にかなくなっちゃったんだよ、『ごめん』」
「『ごめん』じゃ困るよ、無くなったら弟が『怒る』よ、どうしてくれるんだよ~」
「うるさいな~、無くなったもんは『仕方がない』だろ!」
と『逆切れ』されてしまった。
叔父は進学校には珍しい「格闘技好きの怖い存在」だったのだが、彼等はポッシュの「一卵性双生児」なので完全に「舐めて」いた。「弟は怒ると怖いから!」と説明しても、「ケラケラ笑う」だけで、全く「取り合ってくれなかった」のだ。
叔父のベースの行方を探し歩いて[「途方にくれている」ポッシュに、「見るに見かねた」スリムが声をかけてきた。
「ポッシュ、言いづらいんだけどさ~、実は『弟さんのベース』なんだけど、『文化祭』の後に『酔っ払ったあいつら』が、ぶっ壊して、『プールに投げ捨てた』らしいよ」
「不良」と書いて「良しにあらず」と解く。そう、「屋上部員」は「タバコを吸い」、「お酒を飲む」など「よくないことをしている不良」であるのは「確か」だろう。だけど、「悪人ではなかった」はずだ!「好意」で友達がわざわざ借りてくれたベースを、「カート・コバーン」がステージでやるように「ぶっ壊してプールに投げ捨てた」というのは、「悪人のすること」ではないのか?
そう思った時、「ケケケケケ~」と高笑いをするアルルカンの姿が思い浮かんだ。
「あいつならやりかねない、『気狂いピエロ』だから!」
この話を聞いた時、現代でいえば当時観たばかりの「クリストファー・ノーラン」監督の『ダークナイト』の影の主役ともいえる、一昨年にはスピン・アウト作品が大ヒットした「ジョーカー」のようなものなのかと感じ、「背筋が寒くなった」のを覚えている。
「そんな奴、本当にいるんだ!」
可愛がってくれていた平井先生にも相談した、何とかしてくださいと。しかし先生は、
「ああポッシュごめん、俺、最近色々あって、忙しいんだよね」
と言って、取り合ってくれなかった。先生も「屋上部を敵には回したくなかった」のだろう、特に「気狂いピエロ」を!
観念したポッシュは、「嫌で嫌でしょうがなかった」が、叔父に「事情」を話した。「想定内」だったが、彼は怒り狂った。
「ふざけるな!こちらは好意で貸したのに、『ぶっ壊した』ってどういうことだよ?今から『そいつの家』に行くから!」
と、なってしまった。祖母が何とか諫めて、
「お父さんが帰ってきたら『事情を』話すから、とりあえず待ちなさい。全く、なんでこんなことになったのかしら?ベビーフェイス君だっけ、去年の夏には一緒に『乗馬クラブ』に行っていたじゃないの?」
と呟いていた。祖母がおじいちゃんに話すと、「商社マン」として当然のように
「分かった、私がベビーフェイス君のお父さんと話し合いに行ってくるから、それまで待ちなさい」
と叔父に告げた。こうしてポッシュは、「双子の弟」と「友達?」との「板挟み」になってしまった。
ベビーフェイスのお父様は至って「真っ当な方」で、おじいちゃんとの「話合い」は、何の問題もなく「解決」した。
「うちの息子が問題を起こしてしまって、誠に申し訳ない」
と「平謝り」だった。「問題」は、プリーストのお父様が警察で絞られたように、ベビーフェイスが父親からきつく叱られたことだ。元々、「屋上部に入って良からぬ仲間と遊んでばかりいるのでは?」と勘ぐっていたお父様は、その当たって欲しくなかった「疑念が現実化」し、彼を厳しく「叱責」した。おじいちゃんも「補導事」件の際は、その時限りの「事件」だと思っていたから、許したわけだ。どこの家でも「東京大学への進学のために麻布に入学させた」わけで、「不良にするためではなかった」ので「当然」だろう。
こうなると、まだ大人になりきらない「反抗期の真っ只中にいる青少年」、しかも「屋上部員」となると、「結果は明らか」だ。お父様の「怒りの感情」は、ベビーフェイスの身体の中で「増幅」され、そのままポッシュに向かっていった。
彼には「自分が悪かった」という「感情」は、勿論あったはずだ。「問題はアルルカン」だった。「屋上部のリーダー」となっていたあの「気狂いピエロ」は、当人以上に許そうとはしなかった。
「ポッシュの奴、『子供の喧嘩に親を巻き込む』とかあり得なくねぇ?もう今日から『シカト』してやろうぜ!」
こうして『いじめ』が始まった。さらに、「無視されるようになった」と聞いた叔父は「同情」するどころか、
「お前は本当に情けないよな~、悪いのは向こうなのに、なにイジメられてんだよ!」
となり「怒り」が増大した。こうしてポッシュは「家庭内」でも、「一卵性双生児」かつ「唯一の兄弟」である叔父からも、「無視」されることになった。
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