第22話 高等部編プロローグ 新メンバーとジャズ「シブい」「シュール」

 この頃「屋上部」には、新たなメンバーが加わった。「天然パーマ」で髪型が「アフリカ系人種」のようなアフロ。「小太り体型」だが「お相撲さん」のように筋肉が発達しているのか?「運動神経が抜群」のハルク。プリンスとは異なり「今風のイケメン」のベビーフェイスだ。この3人はアルルカンが発掘してきた人材で、彼と特に親しかった。アフロとハルクはロックも聞くのだが、それ以上にジャズに「造詣」が深く、「屋上部」に「変化」をもたらした。

「中学の3年間、これほどの「逸材」が何処に隠れていたのだろう?」

 と、3人を全く知らなかったポッシュは、麻布の人材の「層の厚さ」を思い知らされた。「みなそれぞれ自分と「格闘」しながら、「歩むべき道」を見つけていたのだな〜」と。

 アフロはその頃「歳上のお姉さん」と付き合っており、ポッシュ達のような(プリンスはもちろん例外だが)「チェリーボーイズ」ではなかった。そのせいか妙に大人びていて、少年とは思えない「達観」したようなところがあった。「ま、世の中そんなもんだよ」というのが「口癖」だった。

 ベビーフェイスについては、最初は「アフロの親友」という程度の薄い印象しかなかった。女の子の場合は、「さなぎが蝶になる」ように、「垢抜けない娘」が突然「綺麗」になるという話が「漫画」や「映画」などによくあるのは、ご存知だろう。

「男の子の場合にも、こういうケースがあるの?コイツこんなにカッコ良かったっけ?」

 と感じたたポッシュだった。



 「マイルス・デイヴィス」に代表される「モダン・ジャズ」。その中でも、当時の一般の「ジャズ・ファン」とは異なり、アフロ等が敬愛していたのが「フリー・ジャズ」だった。名作『至上の愛』に代表されるフリーに転向後の「ジョン・コルトレーン」やそのピアニストだった@マッコイ・タイナー:、「エリック・ドルフィー」、「オーネット・コールマン」、マイルスの場合は『ビッチェズ・ブリュー』以降の作品が、「憧れの対象」だった。

 「不協和音の嵐」で、「ず〜と聴いていると頭が痛くなってくる」というのが、ポッシュの「最初の印象」だった。

「Jr.、ロックのように『うるさい』だけじゃなく、『耳に心地悪い音』が迫ってくるんだよ。到底、『少年が聴くような音楽』ではなかった。もちろん、『こんなのを聴いていた女の子』なんて、いなかったと思うよ」

「コルトレーンが一番好きだったんだけど、当時もう亡くなっていて。でもピアニストだっったマッコイの『ライブ』はその後大人になってからニューヨークや、横浜でも見る機会があったんだ、『ラッキー』だったのかな」

 「頭痛がしてくるフリー・ジャズ」などというものを愛していた「新メンバー」が好んだフレーズは「シブい」であり、「う~ん、この曲シブい」とか、「あの茶店、シブすぎじゃん!」みたいなフレーズが飛び交うようになっていた。プリンスに代表される「キラキラ感」とは「対極にある世界」だった。さらに「美術大学志望」だったアルルカンが、ポッシュが大好きだった「革命の国で起きた前衛芸術運動」の「シュルレアリスム」に由来する「シュール」という言葉を使い始めると、これも一気に「流行」した。普通のものとは異なる、絵画でいえば「ピカソの晩年期」に見られるような、「摩訶不思議なもの」が「尊し」とされるようになった。

「オォー、マイルスの『アガルタ』って音だけじゃなく、ジャケットも『シュール』じゃん!」

 という感じで使うらしい、よく分からないが。

 


 そしてあのプリーストも、「補導事件」以来「屋上部」のメンバーとなっていた。彼もポッシュ同様に「家庭での自由」を手に入れたのだろうか?そこまでは分からないが、なんと「旧制高校」を彷彿させる「哲学」を「屋上部」に持ち込んできた。もっとも、この「ショーペンハウエル」や「カント」がどうのこうのという「議論」についていけた、もしくは「興味」を示したのは、「屋上部員」ではディレクターだけだった......「それはそうだよね〜」と思ってしまった。

 「屋上部」は「少女漫画」に見られるような女の子たちの憧れる「キラキラな世界」から、「シュールな」、劇団の「おじさんが大好きな世界」へと、「変化」をしつつあった。アルルカンらによるこの「転向」を、「旧メンバー」で最初に受け入れたのが、ディレクターとアンクルだった。こちらのほうが下町在住の「江戸っ子」の彼等には、実は「好み」だったからだ。「アヴァンギャルドで、知的な世界」に変わっていったのは、良かったのだろう。しかし同時に、アナキンが光り輝く「ライトサイド」から「暗黒の支配するダークサイド」へと落ちていき「ダース・ベイダー」となったような、「危ない雰囲気」が屋上部には立ち込め始めていた......

 ポッシュは同じマイルスでも、50年代のコルトレーンらとの「第1期クインテット」が好きで、『ラウンドアバウト・ミッドナイト』や『マイルストーンズ』などの「ミュート」を効かせたトランペットにシビレていた。アフロの「ポッシュ、『ビッチーズ・ブリュー』ってすげ〜よな、そう思うだろ」という「問い」に、「うん、うん、凄いよね」と答えながらも、本当のところは、「何がいいのか?」よく分かっていなかった。しかし、アフロに風貌が似た「キース・ジャレット」の名作『ケルン・コンサート』などのピアノの「インプルヴァイゼーション」風の作品、「チック・コリア」が結成したグループ「リターン・トゥー・フォーエバー」の「透明感あふれるサウンド」には、すぐに馴染めた。


  


 こうしてアルルカンを中心にした「新たなメンバー」と共に、ポッシュは渋谷の「道玄坂と本店通りを結ぶ小道」にあった「ジャズ喫茶」の「ジニアス」と「デュエット」にも通い始めた。「ロック喫茶」では、「渋谷から来ると青山トンネルの手前の壁の中にある店」も発掘され、新たな溜まり場となっていた。「ジャズ喫茶」でも「タバコ」は吸えるのだが、「リクエストしたレコード」を一心に聞く方々の「聖地」であり、「私語」は一切許されていなかった。少しでも「お喋り」をすると、おじさま達や店のマスターに「シ~」と嗜められた。もちろん「アナザー・サイド」にあふれていた「カワイイJK」など皆無の「メンズクラブ」であり、大人の方が殆どで高校生などはいなかった!

「そんなお店に、『ロンブ・ファッションの高校生』なんて、合わなくねぇ?」

 その通り、「屋上部員」のファッションも、徐々に変わっていくことになる、完全に置き換わるのには、1年ほどはかかったが。そして、「ジャズ喫茶」に通い、お互いに「レコードを貸し借り」するうちに、ポッシュも1年後にはコルトレーンやドルフィーの「泣き叫ぶような音」にハマってしまっていた。「シャーマニズム」における「トランス状態」のように「哮り狂う音の洪水」。その中に「神」と対峙しているかのような「崇高さ」を感じ、「モダン・ジャズ」やロックよりも、「1つレベルの高い音楽」だと感じていた。


 


 「プログレ」についても、「他のロック」より「天と」対話するような「精神性が高い音楽」ではと思い、「ハードロック」よりもそちらにのめり込んで行った。大人になって、「3大プログレバンド」の1つとされる「イエス」のボーカルの「ジョン・アンダーソン」と仕事で会ったスリムが、言った。

「ああ、彼は音楽で『神』と対話していると、いつも語っているよ」

「やっぱりそうだったんだ」

 ジョンは、「絶対的な存在」である「造物主」の存在は認めるが「特定の宗教」には属さない「シンクレティズム」を信じている、まるで現在のポッシュと同じように!今の言葉でいうと「SBNA」だ。

 メジャーなバント以外にも「ジェネシス」が好きだったポッシュは、その最初のギタリストであった「アンソニー・フィリップス」やその後を継いだ最もお気に入りの「スティーブ・ハケット」、派生バンドの「ブランドX」を発掘し、「レコード貸し借り仲間」のカメレオンらに紹介していた。カメレオンは「ジェントル・ジャイアント」というマイナーなバンドを教えてくれた。また、当時はまだ無名だった欧州大陸の「帝国」、「革命の国」や「食べて、歌って、恋して」が「人生観」の国のプログレバンドにも、「食指」を伸ばしていった。自分の頭で考え、「流行っているのではなく、嗜好に合った」バンドを「開拓」していくことが、出来るようになっていた。

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