第21話 中等部編エピローグ 優等生と引き換えに手に入れた自分の道は自分で決めていく人生

  家に帰ると祖母が、「案の定」責めたててきた。

「こんな子供に育てた覚えはありません。先生方の話を聞いていたらお酒を飲んだのは今回が初めてではないそうじゃない、しかも、タバコまで吸っているなんて。そんなこと全然知らなかったわ。一体どういうつもりなの」

「貴方が『慶応』でなくて『麻布』なんかに入れるから、こんなことになったんだよ。『慶応』に入っていたら、今頃は部活と勉強に打ち込んで、まじめな学生生活を送っていたよ。『屋上部』なんて存在しないからね」

 と以前とは異なり、「切り返した」のだ。「全く叱らない曽祖父」と、「甘いおじいちゃんを軽視」して、家では「女帝」のように振る舞っていた祖母からすると、従順な「坊や」であるポッシュが、まさかこんな「反抗的になる」とは思いもよらなかったのだろう。「ちゃんと勉強をして、東大を目指すのならば、他のことはある程度は大目にみよう」と、「妥協」をしてきたのだ。


 

 振り返ってみると、ポッシュはいつの間にか「ロンブファッション」で登校を始め、「ロン毛のくるくるパーマ」となり、「ロック喫茶」や「ビリヤード場」に通うようになっていた。そして遂に、多少のお酒やタバコも「黙認」となった。「屋上部」に入らなかったら、スマートと共に「東京大学」を目指す、親が思い描いていた「優等生」になっていただろう。しかし入ったからこそ、「名誉革命」のように「女帝」であった母親から「家庭内での自由」を獲得することができたのだ。「名誉革命」とは、後年訪れた際に「デジャヴ」を感じた「ウイスキー」で知られる「かつての王国」。その国家を「無理矢理併合した西の島国」で起きた、「無血での革命」。

 ポッシュは後に観ることになる、ウイスキーの国の独立運動を描いた「メル・ギブソン」主演・監督の名作映画『ブレイブハート』の主人公である英雄「ウォレス」のように、「フリーーダーーーーム」と、心の中で叫んでいた。他国に占領されたことのない「この国」の人間には分からない、「虐げられてきた被占領国の民族の気持ち」に容易に「感情移入」ができるようになったのは、この「家庭での自由を獲得した体験」があったからだというのだ。米国人の「自由を尊ぶ意識」も、外資系に勤めていた際には、すんなり受け入れられた。


 

 「東の島国」では当たり前になっている「自由」というものはこの21世紀においても、実は「かけがいのないもの」だ。香港で「民主の女神」と呼ばれている「アグネス・チョウ」さんのインタビューをテレビで観た時に、

「僕よりも若いこんな子がこれだけ『自由』というものの『尊さ』を理解し、そのために『人生』をかけているのか」

 と「愕然」とした。

 「屋上部」のおかげで「赤面対人恐怖症」も直り、「彼女」もでき、「勉強以外のこと」を仲間と共有し、「楽しい思い出」ができた。そして何よりも、祖母からの「自由」を手に入れたことが、ポッシュの中では大きかった。「親や世論にさえ左右されずに、自分の頭で考えて行動できるように成長した」という「事実」が、僕には「より評価できるポイント」に思えるのだが。


 

 「親の意向通りの優等生」になることは、「敷かれたレールの上を走る電車での旅行」のようなものだ。「安全」だが、「行き先は決まって」おり、途中で美しいと感じた場所に降りることはできない。これがほとんどの人が歩む「サラリーマン人生」だ。

 それに対して、ポッシュが選んだのは、「自分で道を選んでいく車での旅行」だ。途中に美しい湖があれば車を停めて、写真を撮って、散歩をすることができる。しかし、「行き先も定かではなく、道はどこに続いているのかわからない....」。ポッシュが「周りに流されるままに入社した日本企業を離れ、M.B.A.に留学し、外資系で転職を繰り返すことになる」のも、このときにもう決まっていたのかもしれない。

 ポッシュが日本だけでなく、欧米でも「空港でレンタカーを借りて車で旅行をする」のは、まさにその「生き方に合った旅」だからだろう。「車での旅は危険を伴うが、電車では行くのに不便な中小都市や田舎にある修道院や城にも行くことができる」からだ。

 こうしてポッシュの楽しかった「中学時代」は終わり、「高校時代」が始まっていた。「安定した生活を捨てた代償」に、この「補導事件」に象徴されるように、その後「辛い運命が待ち受けている」ことを、当時のポッシュは知るよしもなかったのだった....

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