第18話 女学館文化祭でできた初めての彼女と女の子に見えている自分

 「おい、女学館の文化祭に行こうぜ!」

 とスリムが声をかけてきたのは、「中3の秋」だった。中2の時とは異なり、スマートとではなく、スリムと一緒にポッシュは「女子校の文化祭」に出かけることになった。残念だが、変わらずに「学園トップ」の成績を誇る「エリート」のスマートと、「落ちこぼれ」と呼ばれた「屋上部」に足を突っ込んでしまったポッシュとは、もう「住む世界」が違っていた。彼の心の中に育まれている「スマートへの友情」は、変わらなかったのだが......

 実はスリムも、いつの間にか「屋上デビュー」を果たしていた。「屋上部」に入ってからも、彼は何も変わらなかった。飄々としており、いつもニヤニヤしていて、楽しそうだった。何事にも大袈裟で、「オォー、マジかよ」みたいな感じのリアクションをするので、見ていて楽しかった。


 

 「東京女学館」は、「麻布学園」のすぐそばにある女子校だ。紅葉もちらほらと色づき始めた11月の初めに、「文化祭」は開催された。同級生の妹が通っていた為、スリムがチケットを手に入れたのだ。

 2人とも「厚底靴」に「キッツキツのベルボトム」に肩までの「ロン毛」という出で立ちだった。ポッシュの容姿は1年前とはまるで「別人」で、「桜蔭」の2人がその姿を見たら驚いたことだろう。その派手な容姿と服装の為か、女の子の「キャ~キャ~度」も、昨年とは比べものにならなかった。制服も「桜蔭」とは異なり「セーラー服」で、なぜかそれだけでみんな可愛く見えた。「セーラー服の魔力」は確かに存在するのだ! 

 そして、勿論ポッシュではなくスリムが、2人連れの「女学館」でも派手な女の子に、声をかけた。特に会話が弾んだわけでもないのだが、この年頃は「ルックス」重視だ。2人はその子達と、それぞれ付き合うことになった。あっけないほど簡単に、「人生で初めての彼女」ができたポッシュだった。




 彼女となったマリリンは、中3なのによく大学生に間違われていたそうだ。大人びていて、セクシーだったからだろう。「モンロー・ウォーク」が自然にできてしまう女の子なんて、なかなかいない。

それに、なにか「失敗すると舌を出す」のが癖で、

「よく舌を出しちゃうのだけれど、親に凄く怒られるの」

「特技はさくらんぼのヘタを舌で結べることなの」

 といっては「さくらんぼ」を口に入れると、舌が出てきたときには軸が器用に結ばれていた。

「すごいね~」

 と褒めると、顔を赤らめながらも凄くうれしそうだったのが印象的だった。

 当時のポッシュは、「手品みたいだ」と思うだけで、「色っぽい」とかなど全く思いもしなかったのだった。また、二人の交際が3年も続いたのは「ルックスだけ」だったようだ。

「マリリンは意識してなかったと思うけれど、『私の顔が好きだっただけ』だと思うよ。なぜか一度君のおじさんとデートしたことがあったのだけれど、その後で『凄く楽しかった』と言っていたから」

「当時のこちらは『文化系』、彼女は『体育会系』だから、趣味も性格も合っていなかったと思うんだよね」

 そうした経験から、ポッシュは大勢の中からお互いに好きになっていくという「学園モノ」の「漫画」や「アニメ」の世界に憧れるようになっていった。



 

 彼女ができて何が変わったかといえば、週末に麻布の友達と一緒に行っていた趣味の「映画」や「ゲーセン」、「美術館」や「コーヒー屋」さんに行く相手が、マリリンに変わっただけだった。デート場所は今と同じで、渋谷や原宿が多かった。平日には「ナショナル麻布」の隣にあった「31」で待ち合わせをして、アイスを食べながら「隣の公園」を散歩するぐらいだった。

 ポッシュは「屋上部」に入ったおかげで流石に「赤面対人恐怖症」は直っていたが、変わらず「内気な性格」だった。「前世を暮らした国を併合した憎むべき国」の彫刻家の言葉のように、徐々に「陽の部分」が出始めてはいたが、それがはっきりするのは「大学入学後」であり、まだまだ「陰の面」が強かった。その「風貌」も重なり、特に女子からは「近寄りがたい」と言われることも多かった。「冬休みに」なってもよく会ってはいたが、数十回デートを重ねても、ポッシュとマリリンはせいぜい「手を繋ぐだけの関係」だったそうだ。僕たちを「草食」扱いするくせに、自分も同じだったようだ。まあ、中学生だから当然かもしれないけど。


 


 当時のポッシュは色白で彫りの深い「ミックス顔」で髪と目の色は茶色で、おちょぼ口。身長は165センチ弱だったがロンブのおかげで180センチ、体重は50キロ。「撫で肩」で、「クルクルの髪の毛」は肩まで伸びていた。マリリンと渋谷の「公園通り」を歩いていると、よく中高年のカメラを抱えた男性から、「バシバシ」写真を撮られた。家にもあまりない「当時の父の写真」が、見知らぬ人の家庭に眠っているのかと思うと、不思議な気分になる。

 写真を取られるのは、「ふたりとも大人っぽくて絵になっていたから」だと思っていた。しかし、そのうちの1人がマリリンではなくポッシュに、

「エクスキューズ・ミー?キャン・アイ・テイク・ユア・フォト?」

 と聞いてきたことがあった。この時ポッシュは初めて悟ったのだ、

「ゲイでもない限り、男の写真を撮りたい野郎なんていないはずだ、自分はもしかして、ミックスの女の子に見えているのかも?」

 そして家に帰って、鏡をマジマジと見て気づいた。「キッツキツ」で「シルエット」が分かる「ベルボトムジーンズ」に包まれた自分の「お尻」は、普通の男の子のように「ペッタンコ」ではなく、「マリリン・モンロー」、今で言ったら「スカーレット・ヨハンソン」のように、「丸い」ことに!

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