第14話 プリンスの超絶ギターテクと「え、コーヒーとケーキじゃないの?」
「プリンスの家」は、「東横線」の「横浜に近い駅」にあった。「駅」からは、「ダラダラ」とだらしなく歩いた。「雲ひとつない青空」が広がり、「空気はひんやり」としていたが、「清々しい気分」になれた。周りは「一族」の家が多く、お父様は「サラリーマン家庭」の多い麻布には珍しく、「弁護士」だった。当時でも珍しい、「2階がない平屋」だった。学年最後となる「3月の期末試験」を終え、「屋上部メンバー」が「家」に着くと、「綺麗なお母様」が出迎えてくれた。
「いらっしゃっい、『ターちゃん』をよろしくね」
「はい、勿論です!」
プリンスは「家」では「ターちゃん」と呼ばれているようだ。皆は「真っ青な空」や住宅街に咲き始めていた「桜のほのかなピンク色」よりも、「真っ白なワンピースを着たお母様」が眩しかった。
「男」とは不思議な生き物で、歳を取ると「若い娘」を好きになる癖に、「少年」の頃には「歳上の大人の女性」に憧れる「習性」がある。「友達のお母さん」とか「女性教師」とか、人により「色々」だ。「麻布学園」の場合は「妙齢の綺麗な女性教師」などが赴任すると、「ガチ」で「屋上部」の高等部の先輩に襲われかねないので、よく「テレビドラマ」や「漫画」に出てくるような、「若くてかわいい女性の先生」などは、残念ながら存在しなかった。そのため、「プリンスのお母様」が皆の「憧れ」の存在になった。アルルカンが「プリンスのお母さんにラブレター出そうぜ!」とか言い出したのは、高等部になってからだったが。
「長い廊下」を通り、突き当りの「自分の部屋」に入ると、プリンスがおもむろに愛用の「フェンダー・ストラトキャスター」を取りあげ、「演奏」を始めた。僕は名前も聞いたこともなかったが、「ジョニー・ウインター」、「ロリー・ギャラガー」という「ブルース系」のミュージシャンを中心に、「Zep」や「トッド・ラングレン」など色々なアーティストの曲を、次々と「アドリブ」で繋げていった。
ストラト特有の「ビブラート装置」を操り、弦を上下させ「ジミヘン」張りの「ギュウウ〜ン」という音を出すのだが、その演奏力とセンスの素晴らしさには、ただ圧倒されるだけだった。さらには「ボトルネック」と呼ばれる「グッズ」で「スライド・ギター」のような音を奏でたり、「エフェクター」を使って「ビュウーン、ビュウーン」と自由自在に音を操る。その演奏技術は「プロとどこが違うの?」とポッシュには思えたのだ。なんせその「演奏力」は「ユーミンバンド」で将来キーボード奏者として活躍することになる高等部の先輩の「お墨つき」なわけで、「当然」だったのだろう。
皆で1時間ぐらい、飽きもせずにその「演奏」を黙って見つめているという、「不思議な時間」だった。しかし、4人は身近で彼の「超絶技巧の演奏を」見ることができ、「ナルシスト」のプリンスのほうも見られているのが「満更」ではなく、皆が「幸せな時」を過ごしていたのだ。
暫くすると、「ドアをノックする音」がする。
「みなさん、そろそろブレークを取られれば?」
と仰り、お母様が入ってこられた。アンクル達と違い、「プリンスの家」を訪れるのが初めてのポッシュは、「トレイに並べられた物」を見て「ギョッ」とした、「え、コーヒーとケーキじゃないの?」と。「ポッシュの家」とは違い、用意してくださったのは、「サントリー」の『ローヤル』という当時人気だった「ウイスキーのボトル」、アイスペールに入った「氷」、ピッチャーの「水」と「灰皿」だった!みなはすぐに「タバコ」に火をつけると、「ふ〜」と「白い煙」を吐き出した。「煙」があっという間に部屋に広がっていく。吸っている時には気がつかないのだが、家に戻る前に「消臭剤」でごまかす前にかぐと、凄く鼻につく「嫌な匂い」がした。
お母様は「お酒と煙草セット」とチーズやナッツなどの「おつまみ」を置くとすぐ退出されてしまったが、代わりにアンクルがなれた手付きで、まずみんなの「グラス」に「氷」を入れると「ウイスキー」の「封」を切り、注いでいった。不思議な事に、「封」を切っていない「ウイスキー」のボトルを開けて「瓶」から最初にお酒が注がれる時には、「トォクトォクトォク~」という「独特の音」がするのだ。
生まれて初めて聞いたポッシュは、「この音」にハマってしまった。なんともいえない、「いい音」なのだ。氷がウイスキーに触れる時に発する「クヮラン」という、「弾けるような音」にも感動した。
「プリンス、水どのぐらい入れる?」
「初めての奴もいるから、薄めにしとけよ」
と答えたプリンスは、ポッシュのほうを見て、「ニヤっ」と笑った。
それから真夜中まで続く、「ニコチンとアルコールにまみれたパーティー」が始まった。流石に『ゴシップガール』のように「マリファナとセックス」は登場しなかったが、そこそこ「プレップスクール」ぽい「宴」が存在していたのだな~と驚かされた。
しかしプリンスの予想に反し、ディレクター、次にアルルカンと潰れていき、最後にプリンス、アンクルとポッシュが残った。
「ポッシュ意外と酒強いじゃん、見直したよ」
「おいアンクル、そろそろ俺たちも寝ようぜ!」
とプリンスが叫んで3人が眠りについた時には、「時計の針」は「明日」を指していた。ディレクターとアルルカンは低いが「段差のついた廊下」で潰れており、アンクルが呟いた。
「こいつら、よくこんな斜めになって寝られるよな~」
こうしてポッシュは短期間に、「ニコチン」だけでなく「アルコール」の洗礼も、「サラっ」と受けることになった。「体の中」で
「そうだよポッシュ、お前にはタバコよりもお酒が合っているんだよ!」
と、「何か」が囁いていた。
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