第13話 「オチンチン潰れちゃうよ~」屋上部の制服購入とロック喫茶デビュー

  こうして「屋上デビュー」を果たしたポッシュは、同じ学年ではプリンスが「リーダー」的な存在の「麻布学園屋上部」の一員になった。彼の仲間には「プリンスバンド」の「ドラマー」であるアンクルの他に、いつもジーンズのつなぎを着ているアルルカン、演劇が大好きな、英語でいうところの「フォーレターワード」が口癖のディレクターがいた。彼は「プリンスバンド」の「ベーシスト」だった。ポッシュは5人目の屋上部の「メンバー」ということになる。



 そして「屋上デビュー」後すぐに、プリンスとアンクルに、「渋谷のジーンズ店」に連れて行かれた。「屋上部」は学校が終わると、渋谷の道玄坂から「百間店」に入った奥まった路地に今でもある「B.Y.G」やセンター街と本店通り(今の文化村通り)の間の路地を入った地下にあった「アナザーサイド」という「ロック喫茶」、東口会館の「ビリヤード場」・「ボーリング場」・「ゲーセン」、坂の横の「スロット」に行くことが多かった。

 坂を上り右に折れて「百間店商店街」に入っると右側に「道頓堀劇場」という「ストリップ劇場」がある。さらに進んで右に曲がった階段の途中にに「その店」はあった。25インチや26インチの、「女子向け」のような小さいサイズの「ベルボトムジーンズ」と「厚底靴」が揃えられていた。

「ポッシュ、お前、いつまで『制服』着てんだよ。『屋上部員』になったんだから、早く俺たちと同じように『ジーンズ』と『ロンブ』履けよ、『店』に連れてってやるからよ!」

 というのが、その日のプリンスの「命令」だった。彼が履いているのは「本来のサイズ」より1つ小さな「25」インチのベルボトムで、ポッシュも「ピッタリ」の「27」ではなく、「26」のサイズを履くことになった。



「試着室」に入ると、サイズが1つ小さいので、勿論入らなかった。「カーテン」を開けるとプリンス達が待っていた。

「おい、早くチャックを上げろよ!」

「これ以上は上がらないよ~」

「無理矢理あげるんだよ、ほら俺たちが手伝ってやるよ〜」

 アンクルが右と左に分かれていた「ファスナー」の噛み合わせ部分を真ん中に引き寄せると、プリンスが「金属の引き手」を無理矢理引き上げてきた。思わず叫んだ、

「オチンチン潰れちゃうよ~」

「キャハハ、お前なんて、ついてるだけだろ」

 完全に引き上げられ、ボタンを留められた。ポッシュの「ジーンズのサイズ」は、「26」になった。同時に、「ロンブ」も購入した。



 こんな感じで「標準服」をやめ、派手なシャツに「キッツキッツ」の「ベルボトムジーンズ」、「厚底靴」に身を固めたポッシュは、プリンス達と「渋谷」に遊びに行くようになる。「帰り道」なので、「遊び場が渋谷」なのは好都合だった。

 上述のように、渋谷には2つの「ロック喫茶」があった。「誰でも歓迎」の坂の上の商店街を入った店「B.Y.G」とセンター街と本店通りの間の小道の「31アイスクリーム」の裏にある「アナザーサイド」だ。後者は、「知る人ぞ知る店」だった。いつも「ロンブファッションのお洒落な学生」で賑わっていて、入店者は客や店員からジロリと睨まれ、「ファッション・チェック」を受ける。「ダサいファッションの奴はお断り」で、「標準服」などで行ける店ではなかった。そのため、「まずはジーンズ屋」だったのだ!

 地下にある店の入口の右側はキッチンになっていて、「火事になったら全員丸焼けになっちゃうじゃん!」という、「現在の消防法の観点からは考えられない構造」だった。「爆音のロック」が流れる店内は「煙草の煙」で白く霞み、目が痛くなる。最初に訪れた時にポッシュは、父親が好きだった「煙が目に染みる」という「オールディーズの名曲」を思い出した。その曲の歌詞にあるように、「失恋を想って間接的に涙が出る」のではなく、こちらは「ガチ」に、「直接的にタバコの煙で涙が出る」のだったが......


 この店では、「ミニスカの綺麗なウェイトレス」のお姉さんだけではなく、「雙葉」や「女学館」などの「名門女子校」に通う彼のファンに、プリンスはよく声をかけられていた。プリンスは多くの「女子校」に「ファンクラブ」があったからだ!

 綺麗な女子中高生が

「もしかして、麻布のプリンスですよね?」

 と尋ねると、「くわえ煙草」のプリンスはいつも「ぶっきらぼう」に、

「ああ、そうだけど?」

 と答える。すると、

「きゃ~、私、ファンなんです!」

 となるのがいつもの「パターン」だった。もっとも、隣にいても「大音量」で「細かい内容」は聞き取れなかったが。相手が可愛くて話が合うとプリンスは仲間達に、

「俺用事できたから、先に帰るわ~」

 と言って2人で去っていくことも、しばしばだった。その後どこに向かったのかは、定かではなかった。「厳しかった寒さ」も段々と弱まり、そろそろ「春の気配」が感じられる中、「ロックと煙の日々」はこのように過ぎて行った......

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