第5話 得意のサッカーでなくバスケを選んだポッシュの浅はかさ
ポッシュは中1の時には、「バスケットボール部」に所属していた。小学校時代に仲の良いガキ大将に誘われて、「ミニバス」と呼ばれていた「野球」に例えると「リトルリーグのバスケット版」に所属していたのが「表向きの理由」だった。しかし本当は、「背が高くなりたい」という「思春期の少年の単純な願望」が動機だった。
小学校の頃から「脚力」が発達しており、「喧嘩」でもパンチよりキックの方が得意だった。足も速く中学年には「リレーの選手」に選ばれていた。「中学の体育の授業」で最も得意だったのは「サッカー」で、シュートは下手くそだったが、「ミッドフィルダー」としてボールを自陣から敵陣に運ぶのはポッシュだった。「サッカー部」に入るべきだったのだ!
しかし「高等部のサッカー部の先輩」の、「筋肉が隆々とした逞しい短い脚」を見て、「ムリムリ」と思い、「バスケ部」に入部した。「別のクラス」だったが「同じ小学校」でフォワードとして活躍していたジャックが、麻布でも「サッカー部」の中心にいた。「彼と一緒にサッカーをやるのも、ありだったかも....」と口にした途端に、
「いやいや、『あの時ああしていたならば今頃は......』とか、『この時はこうだったら全く違ったのに......』とか、『タラレバ』は『最も口にしてはいけない』と思っているから、聞かなかった事にしてくれ」
と、頼んできた。そのくせ『東京タラレバ娘』の「漫画」が全巻揃っているのを僕は知っている。
「サッカー」が「野球」と並び「メジャーなスポーツ」となった現在、「ベッカム」から「クリロナ」まで「古今の海外のスター選手」をみても、僕には「サッカー選手が身長は低く短足というイメージ」は全くない。「見かけた先輩がたまたまだったのでは?」と思い尋ねてみると、以下のような話だった。
「いや、本当にその頃の『サッカー部の連中』は、『脚』が太くて短かったんだよ。同じ『陸上部』でも『マラソンの選手は身体が細くて脚が長い』印象だけど、『短距離走の選手はマッチョのイメージ』があるだろう? 『マラソンのような持久力を競う競技』と『100メートル走のような瞬発力が必要なもの』では、『必要な筋肉の質』が違うらしいんだ。当時の『サッカー部』では『兎跳び』ばかりやらされて、『短距離走の選手』のように『脚の筋肉』が発達していたんだよ」
どうも今とは『練習方法』が違っていたようだ。
そういうわけで『バスケ部』に所属することになったポッシュだが、全く活躍できなかった。ボールが「その小さな手には、大きすぎた」のだ。
「ミニバス」の頃は「小学生用の小さなボール(5号、周囲70センチ)」だったので、運動神経の悪くない彼は自在に操れたが、「中学生用(7号、周囲76.5センチ)のボール」では上手くいかなかった。ドリブルはまだいいのだが、「レイアップシュート」などは手を添えているのがやっとで、「てんでダメ」だった。
同学年で「エース」だったのが、「カメレオン」だ。彼は「黒縁の眼鏡がトレードマーク」で、小柄だが細身の筋肉質の「細マッチョ」、「敏捷な生き物」という印象だった。「バスケット」では、「まるで後ろにも目がついているのでは?」というぐらい「周囲の状況」を把握し、「的確なパス」を出す。「スピード」も速く、「ボール扱い」も「シュート」も上手く、欠点など見当たらない。『スラダン』でいうと、「リョータ」が1番イメージに近いようだ。
すぐに友達になっていたポッシュはあまりの「ボール扱い」の差を不思議に思い、「カメレオン、ちょっと手を見せてよ」と頼んで、合宿前に比べっこをした。
「お父さんの手は元々小さい上に掌が大きく、1番長い中指でもその半分強の長さだった。一方カメレオンのそれは指が長く、中指なんて掌と変わらないぐらい。指の関節もよく曲がり、『ボールにペタッとくっつく』感じだったんだ、その『あだ名』の動物みたいにね。そういえば『360度見えるような眼』も、『ニックネームどおり』だと思ったよ」
それに対してポッシュの「視野」はせいぜい150度で、「バスケットは全然ミスマッチだ!」と気がついたのだ。
確かに『スラダン』でも「花道が片手でボールを掴むシーン」があったが、この「エピソード」を聞くまでは、「バスケは手が大きくなくっちゃダメ」だとは、気づかなかった!ポッシュは当時から、「分析能力」には長けていたようだ。
しかし、長野か群馬だったかで行われた「地獄の夏合宿」には、ちゃんと参加した。「麻布学園」は「中高一貫教育」なので、「バスケット部」のメンバーは中1から高2までいる。高3は受験のために引退しており、高2が「最高学年」だった。
「成長期」なので、中1と高2では「テクニック」は勿論、「体力」にも決定的な差がある。全員参加の毎朝の「ランニング」は、特に中1部員にとってはきつかった。
「カメレオン、『高原の早朝』って清々しくて、『空気』も何か美味しい気がしない?」
「うんポッシュ、『早起き』はやはり気持ちいいよね」
などと「呑気な事」を言っていられたのは、初日の「ランニング開始前」だけだった。その後戻ってくると、「胃に入っている物を全て戻してしまいそう」で、「用意された朝食を反対に口に入れる気」になど。到底なれなかった。しかし、その後に「午前、午後と厳しい練習」が待っているので、顧問の高柳先生や先輩の命令で、「無理にねじ込まされた」のだ。
「ランニング」と「ストレッチ」は全員一緒だが、流石に「実戦練習」は「中等部」と「高等部」では別だった。共に練習をした「中等部の多くの部員」の中でも、「カーリーヘア」の中2のドープ先輩に、ポッシュは憧れていた。「バスケットのセンス」が素晴らしく、「リーダーの資質」を持っており、下級生にも優しかったからだ。このドープ先輩と将来「屋上部員」として再会するとは、その時は思いもしなかったのだが。
ポッシュはこの合宿で、一家でテレビを見ていて「ラブ・シーン」になると祖母がすぐにチャンネルを変えてしまう「厳格な家庭」ではお目にかかることがなかったものを、初めて目にすることになった。「エロ本」である!
「思春期真っ只中」のバスケット部員は、夕食が終わって就寝時刻になるまで「エロ本」、といっても「漫画」だったが、を回し読みした。「エロ漫画」の中にも、やはり「名作」と「駄作」がある。5、6冊はあった「漫画本」の数十の作品の中には、やはり「これが最高という名作」と、その中でも「皆の心に突き刺さる名シーン」があった。全員が覚えている「その場面の女の人の台詞」を、ドープ先輩が感情を込めながら見事に再現した。
「あぁ~ん、ダーリン。焦らしちゃ、いやよ~」旅館の「大部屋」は、「大爆笑」に包まれた。
こうして「持ち前の根性」で「厳しい夏合宿」を乗り切ったポッシュだが、秋には「退部」を申し出た。
「せっかく『夏合宿』も頑張ったんだ、今辞めることはない。もうちょっと続けてみろよ」
「いや、自分には『バスケットの才能がない』と実は『合宿前』から分かっていて、『辞めるのは決めていた』んです。でも『地獄の合宿の前に辞めるのは逃げるようで嫌』だったので、『合宿だけは参加する』ことにしたんです」
ここまで言われると、高柳先生も引き止められなかった。
ポッシュは「我慢することは平気」だが、「ダメだと思ったものにいつまでも執着する」タイプではなかった。「ストーカーとは真逆の精神の持ち主」だった。
「バスケ部」から落ちこぼれたポッシュだったが、僕に言わせれば、「自業自得」だ。「背が高くなりたい」とか、「動機が不純すぎる」からだ。そして「罰が当たった」のか、「高身長になるという望み」を達成出来なかった。恐らく、祖母が自身の「過度な偏食」のために、「育ち盛りの息子達」に殆ど野菜を摂らせなかったからだ。その「背丈」はおじいちゃんと殆ど同じで、170センチにも僅かに足らなかった。
僕はちゃんと親よりも10センチは高くなったのだが......
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