第39話 日没

「ママの木も大きくなって来たね」

「巨大樹と同じ木だからまだまだかな・・・」


ママはフユの子であるツユが産まれた翌巡の暖かくなり出す時期に静かに息を引き取った。

その2巡前からママは普段から寝てばかりだったし、目覚めても会話は出来ず目の焦点はあわなかった。生命のエレメントで回復させてもその状態は変わらなかったので、目が開くたびにツユを見せて話しを続けていた。伝わっているのかは分からないけれど、僕がベムだったために、僕とナツだけしか産ませてあげられなかったママの血は今も繋がっていると伝える事を諦めたくなかった。


僕はママが死んだあとに巨大樹の家を引き払い、ママの木の近くの木に家を作った。そこ僕とナツはママの木に毎日通いママの木の世話を続けた。

ママの木は5巡もすると周囲の木と遜色ない大きさになり実を付けるようになったので飛び蜥蜴の雄雌を2組巨大樹から移動させ木に住まわせた。実が落ちて周囲の生き物をおびき寄せるのでその後は驚くほどの成長を見せる様になっていった。

ママの木は50巡を過ぎる頃には周囲を圧倒するような大きさになり飛び蜥蜴の数はどんどん増えて行った。

僕も950巡を越えて体があまりうまく動かなくなってしまい、移動には重力エレメントを使って過ごして居た。最近はそのエレメントを使役する力も弱くなって来てしまい移動もままならなくなっている。そしてママの様に眠っている時間がとても長くなってしまった。起きている時はナツに頼んでママの木が見える窓辺にの席に運んで貰っている。


「ベッドのある部屋をママの木が見える場所にすればよかったねぇ・・・」

「そうね・・・」


部屋で寛ぎながらママの木が見れるようにそこを食卓のあるスペースにしたのは失敗だった。


「ママ・・・僕ももうすぐ行くからね・・・」

「・・・パパ・・・」


ママは今頃この世界の神と会話中かもしれない・・・この世界の神が慈悲深い人ならばもう一目ママに会いたいと思ってしまう。


「ママに会いたいなぁ・・・」

「・・・私も会いたい・・・」


僕とナツの苗床の地を手入れしているフユと楽しそうにその周りで遊んで居るツユを見ていると温かい気持ちになる。


「ナツは僕と居て幸せだったかい?」

「当たり前よっ!」

「それは良かった」


日没が近くなったのでフユは苗床の地の手入れを作業を中断して帰って来るようだ。


「パパっ!ただいまっ!」

「あぁおかえり」

「僕も雷のエレメントを使役出来るようになったよっ!」

「それはすごいな・・・」

「僕もパパの木をハルママの木と同じぐらい大きくするからね」

「お願いするよ」

「うんっ!」


体に付いた汚れを洗い着替えて来たらしいフユが僕の部屋にやってきた。


「ツユっ!あなたも体を洗ってきなさい!」

「はーい」


ツユは軽快な足音をして食卓のある部屋から出て行った。


「パパ・・・風が冷たくなるから窓を閉めるよ?」

「あぁ・・・」


ナツは食卓の窓を閉めたあと、僕を寝室のベッドへ運ぶためにソファーから僕を抱き上げた。


「パパ・・・何か食べる?」

「ううん・・・それは良いから今日も僕が寝る間で手を繋いでいてくれないか?」

「うん・・・全員で来るわよ」

「あぁ・・・それだと嬉しいねぇ・・・」


僕をベッドに寝かせたあとナツはずっと手を繋いでいてくれた。

けれどすぐに眠くなってしまいフユとツユが来るまでに意識を保てそうに無かった。


「ナツ・・・」

「なぁに?」

「ありがとう」

「うん・・・」

「僕は幸せ者だ・・・」

「私も幸せ者だよ」

「ナツのおかげでとっても・・・良い人生を送れた・・・」

「私もパパのおかげで幸せだった」

「・・・」

「パパ?」

「・・・」

「おやすみなさい・・・」

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