第34話 名前
「名前を付けないか?」
「何に付けるの?」
「みんなの名前だよ」
「えっ!」
これから僕の事をパパと呼ぶ娘が二人となるので各々に名前を付けようと提案した。
森林の白は個人を特定するような名前を持たない。集落を形成し婚姻関係を結ぶけど個人主義な部分が強い。森林の白全体を森の一つと認識しているし、夫婦や親子でもお互いが独立すれば個人個人が完全に分かれてしまうのだ。
ママは僕を育てながらも男と認識し始めてしまったし、娘を育てながらも僕への気持ちを引きずっていた。娘はママから独立したあともママを心配するような子に育った。もしかしてベムという存在、幼馴染から変わっていると言われる存在である僕と暮らす事で何かの認識の変化が起きてしまったのかもしれない。
僕たちは現在個人個人でいるよりもお互いの存在を大切に思いながら生活している。ずっと一緒に暮らしていくと誓ってもいるのだしお互いを認識出来るような名前があっても良いんじゃないかと思ったのだ。
こんな事にも気が付かないのは2回目の生の影響があったからだと思う。ボスとボスの妻と自分の妻と自分の子以外は同じ集団の仲間かそれ以外という認識しか持たなかったのだから。
「パパが名前をつけるの?」
「自分で決めても良いよ」
「私は思い浮かばないわ・・・」
「私も・・・」
「じゃあ僕がつけるか・・・」
娘が産まれたのが暑い時期だった、娘の子は寒い季節に産まれた、僕は暑さが柔らぎだす季節に生まれた、ママはどんなときかは分からないけど心地いい季節のイメージがある・・・。
「僕の名前はアキ、そしてママがハル、娘がナツ、この子がフユ・・・でどうだろうか」
「私がハル・・・」
「ナツ・・・フユ・・・」
「名前があってもママの事はママと呼ぶよ」
「あなたの事はあなたのままで良いの?」
「私もパパやママと呼んでも良いの?」
「うん、名前があるだけで呼び方は自由だよ」
「難しいわね・・・」
「それなら何で名前を付けたの?」
「僕の娘が2人になったしね・・・これからはちゃんと分けて呼べるようにしたいと思ったんだよ」
「あっ・・・なるほど・・・双子が産まれた時に子供の呼び方を変えるのと同じって事ね」
「へぇ・・・双子の時は呼び方変えるんだ」
「双子の時はどんな呼び方で呼ぶの?」
「1番目、2番目って呼ぶわね」
「そんな呼び方は嫌だ〜」
「なんか素っ気ないね」
「今思うとそうねぇ」
「パパのおかげで私達変わったんだね」
「僕のせいなのかもしれないよ?」
「私は今の方が幸せだわ」
「私もそう思う」
「こうやって森林の白の常識を壊してしまうからベムが処分されて来たのかな」
「そうかもしれないわね」
「こっちの方が良いに・・・」
森林の白が持つ考え方の多くは、寿命が長く世代交代が遅くても、多様性を確保したり優性な種を選別したりするために作られた制度だと思う。1000巡も同じ相手とだけ子を成すよりは、毎回相手を変えた方が様々な個体が誕生しやすい。まだ体が育ち切って居ない小さい時から森での生き方を教えていくというのもそれを越えて来た強い種を選別するためじゃないかと思う。
それでも森林の白の社会の進みは遅い。エレメントの使役という力があるので他の種族より強いけれど、山岳の赤はどんどん技術を発達させ社会を変えていっている。寿命が長い事は知識や経験の継続性という意味では有利だけど、新たな常識への柔軟性という意味では不利に働いて居ると思う。草原の緑は寿命が50巡で砂漠の茶は100巡ぐらいなのでもっと柔軟性が高いのかもしれない。森林の白や密林の黒はいつかは力で他の種族を越えられ、森や密林が他種族により切り開かれるようになってしまうのでは無いかと思う。
僕は森林の白として産まれたのであまり好ましいと思わなかった。だから山岳の赤にお金を出す時も武力に直接つながる分野には行わなかった。医療や福祉に関わる分野だけに限定していたのだ。
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