第27話 台木

「この枝は確かにモムの木と繋がりましたな」

「では増やせるんですね?」

「えぇ間違い無く」

「では苗木をどんどん増やして貰って良いですか?」

「えぇ構いませんよ、モムの木なんて種植えれば勝手に生えて来るんですから、台木は簡単に増やせますからね」

「ではお願いします」


僕は山岳の赤の酒造組合に酒用になる実がなる木として増やして欲しいと、巨大樹の若い枝を持ち込んで苗作りの実験を依頼していた。今日は組合長に経過報告を聞きに来てるところだった。


「この木はどんな実が成るんです?」

「僕が持ち込む正体不明のお酒の原料だよ」

「なんですって!?」

「栽培方法も研究して欲しいんだ」

「も・・・もちろんですぞ!」


モムの木が台木だと聞いてあまり期待していなかったのか、今の話を聞いて目の色が変わったようだ。


「森林の白のところでは土の栄養がたっぷりないと花があまり咲かずに実があまり出来ないんだ」

「な・・・なるほど・・・」

「森林の白は森の木は自然任せがいいという考え方が主流だからこの実の事はあまり知られてないんだ」

「さすが名誉顧問・・・素晴らしい物をご提供頂きました」


称号貰ったけど名ばかりの状態だったし恩返しになったかな?


「蒸留器のおかげで立派な称号貰ったし恩返しになったら嬉しいよ」

「これがあの酒になる木なら恩返しどころではありませんぞ!」


酒造組合の組合長は興奮して大声をあげ始めた。


「山岳の赤の人はお酒の事になると一生懸命で助かるよ」

「酒は我々にとっての命の水ですからな!!」

「じゃあ次に来る時を楽しみにしているよ」

「えぇ!全力で当たらせていただきますぞ!」


モムの木は種から発芽したあと3巡で最初の花が咲く。接ぎ木は成木の枝を継ぐ場合はすぐに花を咲かせるらしいけど、少し待ってから様子を確認しに来るとしよう。


「山岳の赤の人はお酒の事には目の色が変わるわね」

「うん、だからすぐに増やしてくれると思うよ」

「そうなりそうね」


妻として同席していたママは少し呆れていたけれど、手応えは理解してくれたらしく楽しそうにしていた。


「ねぇ・・・あなた・・・」

「うん、珍しいお酒を買って帰ろうね」

「好きよあなた」


ママも山岳の赤の人を笑えないぐらいにお酒好きだ。最初に蒸留酒を飲んで踊って巨大樹の家から足を滑らして落ちたぐらいだし。


酒造組合の本部の直売店は山岳の赤の各地から取り寄せられた多くの酒が売られている。ママは目の色を変えて色々な酒の入った壺の説明書きを読んでいる。


「このお酒の原料は始めて聞くわ」

「これは砂漠の茶の部族が住む地域で取れる植物から作っているらしいよ。森林の白が住む辺りでは見かけない植物だね。」

「こちらは?」

「密林の黒の方で採れる草だって聞いたことがあるよ。草を絞ると甘い汁が取れるそうだよ」

「じゃあこれは・・・」


娘より酒好きなママを誘って来たのはどうやら大成功だったようだ。

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