第26話 共生

巨大樹と飛び蜥蜴は共生関係にある。飛び蜥蜴は肉食で実は食べ無い。しかし巨大樹の実に寄って来た生き物を捕らえて食べる。飛び蜥蜴の食残しが腐ちて栄養となる事で実を作る為の栄養になっている。

僕は巨大樹の苗床になれないかと思ったけれど、飛び蜥蜴の様な共生相手を見つけ無いと難しそうだと思った。何故なら実を取りすぎて飛び蜥蜴の獲物を呼び寄せる撒き餌が減るとしばらく実を付けず休眠みたいな状態に入ってしまう。飛び蜥蜴は変温動物らしく空腹ですぐに餓死はしないけれどしばらく産卵を控え個体数を減らしてしまう。


この共生関係がなければ巨大樹は苗を作っても大きくならないか、実がなかなかならないか、栄養不足で枯死してしまう気がする。山岳の赤の集落に挿し木で香水用の花を増やして栽培している村があったので、健康そうな巨大樹の枝を持っていって苗木を作れないか相談した。色々と試してくれるそうなので、もし苗木が作れるのなら栽培条件が分かると思って居る。


「今日は満月なんだ、巨大樹の天辺で月を見ながらお酒を飲まないか?」

「良いわね」

「行きたーい」


今日は蒸留していない醸造状態のお酒を持っていこうと思う。170巡ほど前、娘だった女が40巡でエレメントの使役を覚え、僕はこの2人との別れが近いと知り一人で巨大樹の天辺に登りお酒を飲んだ。あの時は早く酔いたくて強い蒸留酒を持っていった。けれど今日はじっくりと月を見上げながらお酒を飲みたいと思っている。


「じゃあ行こうか」

「えぇ」

「楽しみ!」


家の外に出て重力のエレメントを使役して天辺まで登ると土のエレメントを使役して台座を作った。あの時はこの上にあぐらをかいて空を見上げたけれど、今日は3人で寄り添いたいと思っていた。だからラグチェアと幅広いソファの中間の様なゆったりと斜めに3人で寄り添って寝そべれる椅子をその上に置いた。


「君は僕がこの木の天辺にお酒を持って一人で登ると言った日のことを覚えているかい?」

「あの日の事は決して忘れられないわ」

「あの日君は僕に、私をママと呼んでも良いと言った・・・」

「えぇ・・・」

「僕は男で居るために断った」

「えぇ・・・」

「今日は君をママと呼んでも甘えても良いかな?」

「とても嬉しいわ・・・」


僕がママに甘えると言うと娘だった女が僕に言った。


「パパがママに甘え終わったら・・・私・・・2人に挟まれて甘えたい・・・」

「うん・・・分った・・・まずは二人でママに甘えよう?」

「うん!」


ママを真ん中に寝そべって貰い、左右を僕と娘がママを挟んだ。お酒を飲んで大きな満月をしばらく見上げていた。


「今日の月は特に大きく感じるね」

「そうね・・・」

「こんな日がずっと続くといいね・・・」

「ずっと続くよ・・・」

「続けましょう」

「うん・・・」


ゆっくりとお酒を飲んでいたけれど、3人で飲むとすぐに壺は空になってしまった。


「僕はこの巨大樹を増やせ無いかと思って居るんだ」

「美味しいものね」

「でも実に種が無いから植えても生えないよ?」

「うん、だけどこの木の葉っぱの形・・・これはモムの木に似ていると思うんだ」

「そうね・・・」

「実の匂いも似ている」

「この木はここにしか生えて居ないけどモムの木なら山岳の赤の集落の周辺にも生えていたでしょ?」

「種が飛ぶとどこにでも生えるわね」

「繁殖力だけは強いかも」

「うん・・・だから山岳の赤の集落では身近に生えるとすぐに切られちゃってるんだ」

「花は綺麗なんだけどね・・・」

「種は毒があるから食べちゃダメなんでしょ?」

「うん・・・でもこの巨大樹の実は毒も無いし美味しい」

「接ぎ木?」

「山岳の赤の集落でやってた木の増やし方だったよね?」

「うん」

「森林の白では不自然だって嫌われたやり方だわ」

「そうなんだ・・・」

「山岳は平地がすくないから有効に使うために木を切ったり植え替えたり剪定するのが当たり前だからね」

「そうなのね・・・」

「へぇ・・・」

「疫病が流行った時に山岳の赤の所から薬を買ったでしょ?」

「えぇ・・・・スゴい効き目だったわ」

「私も飲んだ・・・」

「あぁ・・・飲んでいたんだね」

「えぇ・・・高かったけどこの子が危なかったもの」

「飲まずに死んだ人がいっぱいいたよ」

「あの薬の原料になる木は接ぎ木で増やしているんだよ」

「えっ?」

「あっ!」

「同じことをモムの木と巨大樹でやれ無いかと思ったんだ」

「飛び蜥蜴の代わりを人がするのね?」

「なるほど・・・」

「美味しい実のために一生懸命世話してくれそうでしょ?」


僕は飛び蜥蜴の代わりに人と巨大樹を共生させようと考えたのだ。

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