第6章 親子再会編

第21話 故郷

久しぶりの生まれ故郷である森林の集落はとても懐かしかった。樹上の家は配置や大きさがいくつか変わっていたけれど、森林自体は100巡程度で大きく変わる事は無いので集落を出た時とあまり変わらない風景が広がっている様に感じた。


パパの家は多少の修復をされ少し立派になっているけれど、僕が覚えて居る形をほぼそのまま保っていた。多分今は別の女性を招いて生活をしているのだろう。この集落に居た当時は僕は幼児だったし、家から殆ど出ない生活だったので、僕が訪れても誰か分かる人など居ないだろう。

懐かしく集落を見ていると森林の白にしては胸の大きな女性から僕に近づいて来た。


「こんにちは、他の集落から来た人よね?」

「確かに外から来ました」

「この集落に家を建てるのかしら?それなら村長にお願いに行くと良いわよ?」


そうしてその女性は僕が産まれた家を指さした。どうやらパパが現在は村長になっているようだ。


「昔ここに住んで居た事があって懐かしいと思い見ていただけだよ」

「あぁ!この集落出身なのね!」

「そうだね、今は旅をしながら暮らしているんだ」

「へぇ・・・家を持たない男なんて変わって居るね」

「君はこの集落に嫁いで来たのかい?」

「違うわ、1人目の子がやっと独り立ちしたから産まれ故郷を見に来た所なの」

「へぇ・・・僕達似た境遇なんだね」

「あなたは新しい相手を探しているの?」

「僕は懐かしい故郷を見た後にまた旅に戻るよ」

「そうなの?」

「あぁ」


この女性は多分発育が遅くアプが好物だった僕の幼馴染だと思う。少しだけあのママ友だった女性の面影が残っているし、時期的にも1人目の子を独り立ちさせたというタイミングは一致している。


「じゃあ僕は行くから」

「うん気を付けて旅をしてね」

「ありがとう、そちらも良い相手が見つかると良いね」

「はは!ありがとう!」


生まれ故郷で幼馴染らしい女性と別れた後に周囲の集落を回っていった。特に目的は無かったけれど、森林の白の人が多く居るという状況は懐かしくも新鮮に感じた。蒸留酒は山岳の赤程ではないけれど友好を保つために役立ってくれた。特に巨大樹の実の蒸留酒は珍しいと驚かれた。何で作った酒かと聞かれたのでモムの実で作ったと言うと驚かれた。モムの実は花が綺麗で実は香りは良いけど殆どが種で果肉が少なくて種にも実にも毒があるので子供に絶対食べないように真っ先に教える木だ。

巨大樹の実だと誤魔化すつもりでモムの実だといったけど別に嘘を言った訳ではない。巨大樹の葉はモムの木の葉と形に似ているしは花生え方は違うけど形は同じだ。それに実から感じる匂いが似ている。だから巨大樹とは近縁種である事には間違いないと思っている。


巨大樹の家は現在は無いので僕は家を持たない男だけど、たまに女性からアプローチを受ける事があった。旅の途中だからと断ったけれど好意自体には嬉しいとは感じていた。


十数か所目の森林の白の集落を訪れ、いつもの持参した蒸留酒を使っての友好を築こうと人が多く集まっている場所を探していると、前方から女性が近づいて来た。また女性からアプローチでも受けるかもなと思いあまり顔を合わせず社交辞令的な笑顔を向けて女性とすれ違おうと思っていた。


「お父さんっ!」

「えっ?」

「私の事が分かる?」


ギョッとしてしっかり相手を見るとその女性はママだった女と少しだけ目つきが違うけれどとても似ている女性だった。


「もしかして僕の娘かい?」

「うん・・・そして妹でもあるよ」

「あぁ・・・大きくなって懐かしいなぁ・・・妹である事はいつ聞いたの?」

「聞いてないけどお父さんと別れてから独りの時にこっそり泣いてたし、寝言でお父さんの事を我が子の様に言ってる時があったからそうだって思ってカマかけたの」


そうか・・・あのママだった女は僕と婚姻関係を解消してから悲しんだのか・・・。


「あのさお父さん・・・」

「なんだい?」

「お母さんを助けてくれないかな・・・」

「えっ?」

「お母さんはもう他の人と暮らせないと思う・・・」

「・・・」

「だめ?」

「もう一度お母さんと婚姻を結べばいいのかな?」

「お母さんの側にずっと居てあげて欲しい・・・」

「子供が出来たらまたお母さんと別れてしまうよ?」

「ううん・・・お母さんはお父さんとはもう別れないと思う・・・」

「どうしてだい?」

「だって私を独り立ちさせたあとは毎日泣いているもの・・・」

「・・・」

「それにご飯もあまり食べなくて元気が無い・・・このままだとそのまま死んでしまいそうなの・・・」

「・・・お母さんの所に案内して?」

「うんっ!」

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