第4章 青年編
第13話 誕生
「これがあなたの子よ?」
「あぁ僕の子だ」
100巡目の最も暑さが続く日に僕のママだった女は僕の子を出産した。
今を思えば僕が産まれたのは暑さが和らぎだす季節だったのでほぼ100歳違いの娘なんだと思う。
2度目の生では多くの自分の子が産まれるところを見てきたので戸惑う事なく対処が出来た。女が言う通りにお湯と清潔なタオルを用意し、懸命に女を励まし子供を取り上げた。泣かなかったので逆さに吊るしておしりを叩いた。泣いたら綺麗に洗った後にヘソの尾を綺麗なヘソになるよう丁寧に切って生命のエレメントを使役して塞いだ。清潔なタオルに包んで女に赤ん坊を抱かせたあと、衰弱している女にも生命エレメントをかけ回復させた。最後におりた胎盤や血のあとを水や風のエレメントで綺麗に片付け始めた。
「あなたは立派な男よ」
「僕は君の子供でもあるからね」
「私は幸せな女だわ」
「それなら嬉しいな」
女の胸に吸い付く僕の娘。
まだ出ないのに懸命に吸い付いている。
先ほど盛大に泣いていたとは思えない静けさだ。
女の胸はもう僕のものでは無い。それを思うと少しチクっと痛みが走ったけれど、僕は女が言う通り立派な男だ、女と娘を送り出すまで決して泣いたりはしない。
「実をすりおろしたけど君も食べるかい?」
「うん、ありがとう」
女は産気付いてから今まで水差しに入れた水以外口にしていない、体は飢餓状態になっているだろう。
娘を抱いている女の口に少しだけすりおろした実を乗せた匙を近づける、隠し味に少しだけ岩塩を混ぜている。
「冷たくて少し塩気があって美味しい」
「いっぱい汗をかいていたからね」
チラッと娘の顔を覗き込むと僕が産湯をあげていた時とはうって変わって穏やかな顔をしていた。真っ赤だった顔も穏やかなピンク色になっている。
「僕が君のパパだぞ」
匙をすりおろした実が入ったお椀に置いて、空いた指先でツンツンと娘の頬をつつく。全く感覚が無いのか全く反応はしない。
「ごめんねおしりを叩いちゃって」
「仕方ないわよ」
「うん分かっているよ」
狭い産道を通り抜ける時に赤子は肺を縮こまらせ、通り抜けた瞬間に開放されて肺を大きく膨らめて呼吸をする。しかし僕の娘はすぐに肺を膨らめる事が出来なかった。逆さに吊るし尻や背中を叩いて、やっと呼吸をしてくれたのだ。
「一番最初に君を叩いたのはパパである僕だ」
「どういう意味のある言葉なの?」
「素直な良い子になるようにというおまじないだよ」
将来叩かれるような事をしても「パパにも叩かれた事も無いのに!」と言わない子になるようにね。
「変わったおまじないね」
「うん僕が今考えたおまじないだからね」
僕は娘を指先で突付く事をやめ、お椀に置いた匙を取り女に実のすりおろしを食べさせる行為を再開する。
「うん、美味しい」
「僕も後で少し貰おうかな」
「それなら交互に食べましょう」
「えっ?」
「私が食べた匙であなたが食べて、その匙で私にまた食べさせて欲しい」
「うん」
僕は今の女の言葉に少しだけ昔に戻ったようで嬉しかった。こういった甘い時間は女のお腹が大きく目立った頃から無くなっていた。これから母になるという本能が男である僕に甘えた態度を許さなくしたのだと思う。
「塩気が効いて冷たいのにとても甘く感じるね」
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