第3章 少年編

第9話 日食

「あの赤くなってるアプは食べごろね、隣のも収穫は大丈夫だけど今日食べると酸っぱいわよ」

「分ったよママ」


僕が産まれて36巡目の季節の寒い時期から温かくなりだした頃にパパとママで話し合い別れる事となった。別れるにはかなり早いけれどありえないほど早い訳では無い。祝福など無くとも頭の良い子は産まれて早く知恵を身につける。20巡目の季節には僕もその一人だと周囲に思われるようにはなっていたので30巡目ぐらいから別れの話は度々出ていた。引き止めていたのはパパでママに未練があるようだった。ママは僕が見ても周囲より綺麗だし料理も美味しい、それに僕が手伝っていたからから家の中が他の家よりも清潔で快適だ。だからパパがいつまでも家に引き止めたくなる気持ちはとても良く分った。

そんな未練がある感じだったパパも隣の集落の女にアプローチを受けた事で別れに応じてくれた。ママはやっと円満にパパの家から出る事が出来るようになったのだ。


僕とママは森を移動しながら生活を続けていた。

森林の白の子供は山岳の赤とよばれる種族と交換したという鉄の鉤爪状の道具を手足に付け木登りの練習をする。木の表面デコボコに引っ掛けると握力をあまり使わず昇り降り出来るのだ。慣れたら鉤爪を使わないよう練習する。鉄の鉤爪は木の表面を過剰に傷つける事なのであくまで子どもの時に一時的に使用が許されているだけだ。

昼は採取を行い夜になると樹上にの布のテントを張って一夜を過ごすサバイバルな生活だけどママと一緒なので不安はない。僕の様な小さな子を抱えては大変な事だけど、僕が様々なエレメントを使役出来る事で結構快適に過ごす事が出来ているのではと思う。

僕が本気で様々なエレメントを行使するとテントでありながらしっかりと設置された家と同じような暮らしが出来る。例えば重力と火と水のエレメントを使役すれば空中で風呂に入る事が出来る。さらに生き物の中には生命のエレメントというものがありそれを使役する事で体の治療を行う事が出来る。1回目の生や2回目の生とは体の構造が多少違うけど消化器系、循環器系、呼吸器系があるという構造は共通していた。それに僕は2回目の生では肉食獣だった。だから生物の身体構造は水や光や風や空間のエレメントを行使して内側まで把握する事は容易かった。旅生活を初めて最初の頃に体調を崩した際に自らの状態を知るために調べていたら、自らの体内から生命のエレメントが出て来てそれを使役するとすぐに体調が治ってしまった。さらに森林の白は植物に詳しかった。その知識と1番目の生の知識である植物の知識である植物の細胞壁の存在や光合成や必須栄養素の窒息リンカリの知識で植物の内部の生命のエレメントを行使する事も出来た。同じように進化論や系統樹やバクテリアやウィルスや粘菌などの知識によって様々な生物からも生物のエレメントを得る事が出来た。

ママは最初の頃は過剰にエレメントを使役する事を禁止した。森林の白としての成長の邪魔になるからと。けれど段々とその生活に慣れて来たことでエレメントの制限を解禁してきた。もう充分に成長したからと。


そういう風に僕はママから乳離れして独り立ち出来る状態であるとみなされたあたりから、ママは発情期の兆候が見られるようになってきた。まだ母乳が出るのに生理が起こってしまったのだ。といっても生理は1巡に1から2回程度しか起こらないのでそこまで生活に影響はない。まだ息子が小さいと思いながらも置いていっても大丈夫と心の中で思っていて、次の男を体が求めてしまっているようなのだ。


「ママ、今日は辛い日なの?」

「ごめんね、あなたがまだこんなに小さいのに、あなたを置いて男を求めようなんて思うだなんて」

「ううん大丈夫」

「また慰めてくれる?」

「うん」


発情期に入った事で、ママはたまに体が疼いてしまうようになった。1回目と2回目の生では女はその周期が月の動きに連動していたけれどこちらでも月の周期と発情が強い時は連動していた。生理の周期は恒星を一周する1巡と呼ばれる周期にほぼ一致するのに不思議なものだ。森林の白は自分たちを森の木から誕生した種族だと信じていたけれど、潮の満干期に関連してそうな発情周期から、海から上がって来た生き物の子孫なんだと思う。森林の白は海を知らない人ばかりなので理解出来ないだろうけど。

月はあまり白く無いのか光の反射率が低くて大きく見える割にはあまり明るく無い。でかいから存在感はすごいあるけどね。

月が大きいからか日食は毎月起こる。ママの発情が強い日もこの日食の日が1番のピークになっている。


「ママ、刺激するよ?」

「うんお願い」

「ママ、真っ赤なお顔で可愛い」

「いけない子ね」

「僕はいけないママの息子だもん」

「そうね、ママもいけない親だわ」

「大丈夫僕が大きくなったらママを貰うから」

「うん」

「じゃあいくよ」

「あっ」


日食の日の朝から夜まで森の樹上のテントにで真っ裸で抱き合う森の白の女性と幼児。大きな嬌声がテント内に響くけれど風と空間と光の結界によって、全く周囲からその様子は認知される事は出来ないようになっている。

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