第7話 打算

季節が5巡りして小さな前歯がやっと生えて来てくれた。ちなみに乳歯という概念は無く最初から永久歯らしい。折れても生え続けるらしいので1回目の生で分類されていたげっ歯類の歯に近い仕組みなのだと思う。これから僕はママと同じ様に固い木の実や石などを齧って歯を丁度いい長さに維持する必要がある。ただし成長の遅いエルフは歯の成長も非常にゆっくりなのでそこまで懸命に齧る必要は無いらしい。ママもガーと呼ばれる前世のクルミの様な木の実を齧っているだけで綺麗な真っ白な歯を維持していた。

風のエレメントや光のエレメントを使役し、家の周囲に防音の結界と迷彩の結界を家にかけた事で、話し声を気にしたり他人の接近を気にして生活しなくて良くなった。


「本当にこの子はおっぱいが好きねぇ」

「ママが大好き」

「あらあらこの子ったら」


森林の白も前の2つの生の女と同じ様に子供に対しては鬼になるほど愛情を持つが、男の扱いは結構ドライだ。パパが居る時はとても仲が良い様に見えるのに、実の採取や木の手入れに出かけ不在の時はそれ以上の溺愛を僕に示しパパの存在なんて忘れてしまう。実に打算的な生き物なんだよ女という生き物は。ただし子供であると僕が甘えるとママは過剰に喜んでくれる、1度目の人生でヒモと呼ばれた奴らと同じ感じなのだろうか。今日もずっと抱っこしながらパパが取って来たアプとカラをすりおろして僕に献上してくれるのだ。

それに僕もママには特別な感覚を持って居る。何故か他の大人に抱っこされた時より良い匂いを感じるし安心感があるのだ。近くに居ないと不安になって泣き叫びたくなるし、声を聞いたり気配を感じるだけでとても安心してしまう。本当に不思議な存在なのだ。


「ママお湯を沸かしたよ」

「じゃあ一緒にお風呂にしましょうか」

「うん!」


僕がエレメントを使役して入れた風呂にゆっくりと浸かりながらママのオッパイに吸い付く。お腹一杯で飲めなくても鼓動の音を聞きながら先端の突起を口に含んでいるだけで幸せな気持ちになる。僅かにから垂れている乳を舐めているだけで甘い香りを感じ、とてつもない安心感が得られるのだ。


そういえば2度目の生のボスたちは、打算的な女たちの事をどう思ってたのだろう。

僕の妻には平気で手を出すのに自分の決めた妻には他の男には決して手を出させない。それなのに新たなボスに負けて群れから追い出された時にはどの女も群れから追い出された元ボスには付いていかない。

その元ボスが妻としていた女たちは、新たなボスの妻になったり他のオスの妻になりつつも新たなボスに呼ばれたらいそいそと抱かれる存在になった。

僕の妻になった元ボスの妻は、僕に抱かれ初めてから出来たにしては明らかに産まれるのが早い赤子を出産した。けれど当然の様に出産前後の弱った時期の食料や身の回りの世話を要求してきた。してくれないなら別の男の妻になると脅して来たのだ。群れには妻を持たず虎視眈々とあぶれた女を狙うまだ力の弱い若い男はいっぱいいた。1度目の生の記憶から少し納得できない気落ちを抱えながらも次の発情の時期には僕の子を身ごもって貰うために、いそいそと世話を続けていたのだ。それがこの群れを大きくさせる事なんだと無理やり納得させて。


「ママぁ」

「なあに」

「大好き」

「私もよ」

「ずっと僕の傍に居て」

「もちろんよ」

「僕幸せ」

「この子のどこがラーマなのかしらね」


森林の白の夫婦は妻が子供を生んだあと50巡ぐらいした時期に別々に暮らし始める。子がそこまで足手まといにならなくなるからだ。男は別の番を探しに行き妻と子を家から追い出す、女は子を成人するまで1人で育てつつ森での暮らし方を教えていく。女に不幸があった場合は集落の子供の居ない女その代わりを行う。女は子供が成人する時期に発情期に入り、別の男と番になってその場に子供を置いていく。それが森の白の夫婦の姿だった。


僕は女が打算的な生き物だと頭では思っているのに、自分にとって特別な女を求めてしまうのだろうか。それが種を存続させる生き物としての本能なのだろうか。男は女を特別に思って養い、女は上辺の愛情を男に見せつつ子供に愛情を注ぐ。子供は母親を無条件に慕い甘え可愛がられる。そういう事なのだろうか。

では何で僕はこんなにもママに対しても女に惹かれた時のように思っているのだろうか。ママが次の発情の季節になった時に、僕を置いて行ってしまう事を不安に思っているのだろうか。もしその時僕は笑顔でママと別れを受け入れる事が出来るのだろうか。

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