第2章 幼年編
第5話 再誕
新たな生は1回目生と似ている人型の生き物だった。未熟児で産まれ長い間親元で暮らす生き物だと季節が1巡りする前に分かった。ただし生まれ変わるのは2度目なので赤ん坊生活もあまり混乱は無かった。
僕の2度目の生は季節が一巡りする時に成人してしまう草原の肉食獣だった。大小の群れを作り他の生き物を襲う大型の肉食獣で、草原の食物繊維の頂点に居るようで死ぬまでの間に自らと同じ種族の肉食獣以外から襲撃を受けた事は無かった。
僕は前世の記憶のおかげで群れの中で上手く立ち回る事ができ、群れを大きくしてそれなりの位置に居る事が出来た。喧嘩は得意では無かったので一度もボスにはなれなかったけど、歴代のボスの腹心ぐらいの立場で居られて季節ごとに可愛い複数の妻と子供に恵まれる事が出来た。とはいっても妻は大概にボスとも交わるので全てが僕の子供だったかまでは分からないけれど僕の子供はきちんと群れの中に混じっていってくれた。
しかし僕は老いて足手まといになった事で、当時の群れのボスである自分の子供に追われてしまった。そして草原をさまよった末にたどり着いた水場の近くで最後を迎えた。水の中には水生の肉食獣が居るので警戒しながらでないと水すら飲めない。水場に近寄る動物を老いた体に鞭を打ってなんとか捕まえ食べ生きながらえる生活を送った。しかしそれすら出来なくなると、僕が死ぬのを嗅ぎつけた小さな肉食獣が周りをウロウロし始めた、僕がまだ生きているのに齧って来る奴もいて非常に嫌な存在だった。とはいっても先ほどまでは自分も自分より弱い生き物を狩り食べて来た存在なので仕方ないと思っていた。けれど生きたまま食べられる痛みには耐えられないので首すら動かなく痛みすら感じなくなるまで最後まで抗った。
3回目の生であるこの人型の生き物は、2回目と違い誕生の数日後に自ら母を追いかけ母乳を催促する事は出来ない。誕生直後の様に自らの肉体の操作すらままならない状態がしばらく続き母になすがされるままなのだ。また体中の痛みというか粥さというかそういう感覚がなかなか抜けない。記憶の整理もままならない状態で混濁していて、まともな思考が出来る様になるまで季節の1巡りの4分の1程を必要としてしまった。
思考が出来る様になると体を動かしながら周囲の観察を続けた。この世界に送られる前に神様の所でこの世界の事の情報を得ている。その時の情報では、この世界には魔法という力があった筈だ。僕は神様から祝福を得て居るのでその辺の力に恵まれているのでは無いかと思っている。だから早くそのワクワクする力を得て群れのボスに・・・いや2度目の人生の感覚が混じったな。
1度目の生でも2度目の生でも女というものはかなり打算的な性質を持って居た。1度目の最後の女もそんな感じでプレゼントを貰ったら用済みとばかりに僕を捨てたし、2度目の時も妻は我が子の事には鬼になるのに、僕には非常にドライだった。僕の妻なのにボスに呼ばれたらいそいそと近づき抱かれていた。僕がどんなに尽くして群れで役に立っても、強いものでないと価値が無いかの様に僕に対しては、ボスの妻では無いのでボスに呼ばれない時だけ仕方なく僕の妻をしているといった態度をしたのだった。
僕は早く力を付けると共に、僕に栄養をくれているこの母が父とどんな関係を構築しているのを観察し、群れの中で力を誇示して静かな最後を迎えられるようになる。それを目指ベビーベッドにつかまり立ちしながら観察に余念がなく過ごして居た。
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