第2話 襲撃

目が覚めると僕は病院のベッドの上に居た。

僕が目覚めると分かる仕組みがあるのか、すぐに看護士が駆けつけた後に医者がやってきた。その後に母さんが部屋に駆けつけて来た。たまたま部屋には居なかったけれど頻繁に面会に来ていたらしい。母さんの説明では僕は事故のあと8日間目を覚まさなかったようだ。

さらに警察もやってきて僕に色々事故の状況を聞いて来た。僕は覚えて居る限りの事を伝えた。ぶつかった車の特徴と、助手席に事故の直前まで付き合っていると思っていた女が乗っていたこと。その女は僕を騙して色々なものを買わせていたこと。その女を部屋に上げた時に色々と物色していた可能性があることなどを説明した。警察は淡々と聞きながら僕に色々現在の状況を説明しただけで「ご協力感謝します」とだけお礼を言い病室を去っていった。


なるほど、僕の家に通帳や印鑑が無いのを母さんが不信に思って警察に連絡していたのか。どうせあの女が僕と事故を起こしたあとにでも合鍵で侵入して貴重品が入った鍵付きの箱を持ち去ったのだろう。これであの女は殺人未遂の共犯と窃盗で捜査をされる事になるのだろう。


「あんた、そんな女と付き合っていたのかい」

「最近付き合ったばかりだったんだよ」

「そうかい・・・」


それ以上母さんは何も言わなかった。


その日の夜に急に呼吸が苦しくなったので目を覚ましたら、男が目の前に居て僕の胸に蹲っていた。僕が目を覚ましたのに気が付いたのか僕の耳に口を近づけて小声で言ってきた。眼球だけを動かして見ると僕の左胸のあたりには何かが刺さっていていた。口を押さえられて居なくても、こみ上げる熱いものによって塞がれて居るため、口だけではなく鼻から出来る筈の呼吸すら困難にしていた。


「お前が急に車の前に飛び出して来たんだからな」


あぁ・・・お前があの女が乗っていた車を運転していた奴か。


「お前に色々喋られると都合がわるいんだ」


僕は「一時停止線を無視して飛び出して来たのはお前だろう」、そう反論したかったけど口を押えられていたので声を出せなかった、ただ胸の奥からこみ上げて来るものがブハっと鼻から吹き出すだけだった。


「うわっ!汚ねっ!」

「キャッ!」


男は僕の鼻から吹き出した赤黒いものは僕の口を覆っている男の手だけではなく足元も汚して飛び散った。

男は後ろにとびずさり、背後にいた誰かが小さな叫び声をあげた。

眼球を動かしてその誰かを見るとあの女だった。とびずさった男の顔は僕の鼻から出た血で点々汚れているがかなりのイケメンだった。こんな男が良かったんだな。


目的は達成し長居は無用と思ったのか、早く逃走しなければならない状態になったのか、男と女はそれ以上何もせず急いで病室から出て駆け出していった。

僕に付けられているコードの先から異常を知らせる信号が飛んでいるのか、ピーピーという音が五月蠅くなっていた。


どうやって僕がこの病院に居るのか知ったのかはよく分からないけど馬鹿な奴らだ。僕は既に警察に事情を話し終わっている。僕が死んでも奴らが真っ先に疑われて逮捕されるのに決まっているだろうに。ここまで状況がそろっている状態で日本の警察が奴らを捕り逃がすとは思えない。

それに僕は受けた衝撃のせいか首から下がまともに動かない状態だ。まだ検査は行われて居ないので正確には分からなかったけど、手も足も何も動かせず感覚すらないのではどういった状態かはすぐに分かる。きっと大変な思いをするような人生を歩む事になっただろう。むしろ僕と両親を楽にしてくれてありがとうと思ってしまうぐらいだった。既に何も見えない状態になった僕の横で人の動く気配はするので治療が行われようとしているのだろう、けれど僕は苦しいのにに動けない状態から早く逃れたいと思い、なるべく早く死んでくれと思ってしまっていた。

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