第6話 初めてのお片付け2

「……‼︎ ごめん、ついカッとなって……ワァッ!」


 反射的に仰け反り、背中から落ちる


 「まったく……躍起になりおって、部屋ごと消し去るわけないじゃろ。まぁ、でも妾も少しムキになってたのじゃ」


 彼女は身体を起こし、顔を赤らめながら着崩れた衣を直す


 「で、どうなのじゃ?」


 「どうなのじゃ?って……」


 周りを改めて確認すると、1大学生の汚部屋からまるで部屋の中に台風が現れたかのような惨状にグレードアップしている。


 「どうだと思う?」


 自称優しい表情で怒りを隠し切れていない声色で逆に問う。


 「……悪くないのじゃ……? 今まで積まれて押し込まれていた子達も皆元気にアッチコチに転がって……ほら! あのカップ麺? の容器も廊下の方まで……」


 「……。」


 「……ごめんなのじゃ。」


 目を逸らし不貞腐れた様子で放つ


 「今度はちゃんと手加減するのじゃ」


 そう言い割座のまま手を伸ばし力を溜めようとする


 「まった!」


 「……?」


 「ちゃんと手で拾って片付けてくれ」


 「はぁ⁈ 妾は神様じゃぞ! なのに何故お主人間のごみを素手で拾わないければいけないのじゃ!」


 「信用できないからだよ! さっきの変な力を見てまた使わせられる訳ないだろ、部屋が保たん。俺の願いを叶えてくれるんだろ? だったらちゃんと手で拾って片付けてくれ。」


 「むぅぅう……! わかったのじゃ、」


 そう言い渋々ベッドから降り、ぶつくさ言いながら近くのごみを拾っていく


 「ごみは分けてこのゴミ袋に入れてくれ」


 彼女に袋を渡し、自分はベッドに腰掛ける。


 自分はベッドに座りながら知らない女の子に部屋を掃除させているこの状況、側から見たら最低なヒモ男だな――

 

 そう思い、しゃがみながらごみを拾っている小さな背中を眺める。


 「……ん?」


 何か変だと思い、彼女を凝視する。彼女はコンビニ弁当のプラスチック容器を手に持つと、数秒止まり首を傾げてから燃えるゴミの袋に入れたのだ。

 

 「まさか……」


 目線をごみ袋に向けると、袋の中には燃えるごみと燃えないごみが入り乱れていた。


 「おい……。」


 「……なんじゃ?」


 「まさか、ごみの分別ができないのか?」


 「……。」


 目線を合わせてこない


 「神様なんだろ……」


 額に手を当て呆れた声で吐く


 「お主は如何なんじゃ! ちゃんと分かっておるのか⁈」

 

 小学校の頃に習ったが、ちゃんと意識したことが一人暮らしを始めた2日ぐらいしかないので正直言ってあまり自信がない。


 「……なんとなく?」


 「そらみろ! お主もちゃんと分かっては無いのではないか! それなのに妾に片付けろと指図しおって、」


 水を得た魚のように急に元気になる

 

 あんたが聞いてきたんだろ――


 急に偉そうになった彼女に不快さを感じたが、これを期にちゃんと調べてみるかとスマートフォンを取り出す。

 

 「おぉ~! コレがスマートフォンなのじゃ⁈」


 何故かスマホを初めて見るかの様な反応をし、目を輝かせながら画面を覗いてくる

 

 「神様設定忘れてるぞ、」

 

 「設定じゃないのじゃ‼︎ わしら神は歴史上の事は全て知っているのじゃが表面上しか知らない故、存在しておるのは知っていたのじゃが実物を見るのは初めてなんじゃ。」


 歴史得意っ子の世間知らずかよっ――


 「如何やって使うのじゃ! 調べられたのか⁈」


 調べている腕をぐいぐい引っ張りはしゃいでくる


 「引っ張るな引っ張るなぁ、え~っと……」


 調べて出てきた内容を口頭で伝える


 「家庭ゴミには大きく分けて、燃えるごみ・燃えないごみ・資源ごみ・その他に分けられるみたいだな」


 「意外と多いのじゃな」


 「まぁでも、俺みたいな一人暮らしは燃えるごみと燃えないごみ・資源ごみぐらいだな」


 「その最後の資源ごみってなんなのじゃ?」


 「再資源化(リサイクル)が可能なごみのことを指すんだ。この部屋にあるものだとペットボトルがそうだな、このペットボトルを再資源化することで服の繊維になったりするんだ」


 「は~、この透明な容器が服になるのねぇ。凄いことするのじゃなぁ」


 「ペットボトル類やプラスチック・ビニール類、缶類の3つが資源ごみだな。ダンボールも綺麗ならこの中に入るんだが、この状態なら燃えないごみかな」


 「そうなると燃えるごみと燃えないごみ、資源ごみの中の3つを合わせて5つに分けないといけないのじゃな」


 「そういうことになるな」


 そういうと彼女は何かを考えるかのように黙った

 

 「……別の願い事じゃだめかのぉ?」


 「だめ。」


 「こうなったら力を使ってすべてを消し去って……!」


 「それはもっとダメ!」


 「なんでじゃあ! 力を使ったらすぐじゃと言うのに‼︎ 片付けがこんなに大変だとは思わなかったのじゃ~あ‼︎」


 急に駄々こねて子供かこいつ!――

 

 内心そう思ったが今まで掃除から逃げてきた自分に突き刺さって心臓が抉れた


 「だぁ~分かった俺も手伝うから、2人でやればすぐ終わるだろ! お前はこれを見て掃除してくれ」


 そう言いインターネットに載ってたゴミ分別表の画像を表示させて渡す


 「お前じゃないのだ! 神様なのじゃ‼︎」


 彼女の決まり文句を右から左へと流し、キッチン周辺の片付けをする。彼女も諦めたのか、渋々スマホ片手にしゃがんでゴミ拾いを始めるその姿は普通の女の子であった。


 約30分経って部屋の8割ぐらいの片付けが終わった頃、彼女の集中力が切れ始めたのかスマホで写真を撮り遊び始めたのでラストスパートへ向けて休憩を取ることにした。

 

 「麦茶しかないけど飲むか?」


 「おぉ! この世に降りてから初めて口にするのじゃ!」


 一瞬で興味をスマホから麦茶へと移し、目を輝かせながら近づいてくる


 「神様ならどんな味か分かっているんじゃないのか?」


 「さっきも言ったじゃろ、情報として知ってはいても実際に体験するのは初めてなのじゃ。そんなのことより早く麦茶を妾によこすのじゃ!」


 尻尾があったらブンブン振ってそうなキラキラした表情をみせる


 「ステイステイ! そんな目を輝かせているが、これはただの麦茶だぞ」


 少し前にコンビニで買ってきた2ℓの代物に対して彼女の期待があまりにも大きすぎる気がして多少の保険を入れる


 「そんなの分かっておるのじゃ! だからさっさとよこすのじゃ‼︎」


 焦らされて彼女の機嫌が悪くなってきたので素直に渡す。すると彼女はコップを両手で包み持ち、香りを嗅ぎゴクゴクと良い音を鳴らしながら慎ましくかつ豪快に飲み干していく。


 「ップハァ~、香ばしい香りから口の中に甘さや苦味が広がっていき冷たい麦茶が喉を通っていく感覚がいいのぉ~」


 麦茶の味を思い出しているのか上を向き幸せそうな表情を浮かべる


 「もう一杯なのじゃ!」


 そう言い、本当に美味しそうに2杯目も豪快に飲み干していった。いつも何も感じず飲み干していたが、彼女に感化されたのか今回飲んだ麦茶はとても美味しかった。


 「よしっ!じゃあラストスパート、一気に終わらせるか!」


 「おうなのじゃ‼︎」


 休憩を挟んでからは順調に進み、麦茶パワーのおかげか最後まで集中力を切らさずに掃除を終えることができた。

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