第42話 霧ヶ峰リリへの活動報告
霧ヶ峰リリ『どうですか?』
動員力8000。
現時点で日本最強のアイドル霧ヶ峰リリ公式アカウント(認証マーク付き)から、そんな一言だけがDMで送られてきた。
(どう……って? え、なにが?)
前の時も感じたけど、この人って基本的に言葉が足りないよな。
よくこれで日本一のアイドルにまで
いや、それも当然か。
なんたって……。
今、オレの目に入っている霧ヶ峰リリのプロフィール画像。
桜が舞う中、霧ヶ峰リリが口に手を当てて驚いたように目を開いている。
世界中にどれほどの数のプロフィール写真があるかは知らない。
けど、それらを全てひっくるめたとしても、このプロフィール画像は間違いなくインパクト度上位に位置するはず。
一度見たら誰もが絶対に気になって手を止めてしまう。
そんな
そんなカリスマ性を備えているのだから。
(むしろ、彼女にとっては言葉なんて邪魔なのかもしれないな)
ふと、そんなことを考えさせられるカリスマ性が彼女にはある。
うん、まぁ、いいや。
とりあえず返事打とうっと。
え~っと……たしか前もアイドル活動について聞かれた気がするから、活動報告でもしておけばいいかな?
Jang Color『メンバー二人で一回ライブやりました。結果はぼちぼちです。今はメンバー三人で、次のライブに向けて練習中です。ちなみに次のライブで動員勝負に負けたら解散です』
送った。
事務的すぎたか?
霧ヶ峰リリ『解散?』
Jang Color『はい。最初のライブでなんやかんやあって。解散を賭けて動員勝負をすることになりました』
霧ヶ峰リリ『そう、よかった』
よ、よかったぁ~?
いやいや……おかしいだろ、その返事。
と思ったけど、よくよく考えてみたらオレたちって、向こうに喧嘩をふっかけた加害者側なわけで。
それに対する「ざまぁw」的な反応が返ってきたとしても、それはまぁ自然っちゃ自然なわけで。
ってことは、なんだ?
(霧ヶ峰リリは、オレたちを煽るためだけにDMを送ってきてる?)
いやいやいや、それも不自然だ。
だってDMがバレたら規約違反? かなんかで賠償請求って言ってたでしょ?
しかも数千万円単位で。
そんなリスクを取ってまでわざわざ煽ってくる意味がない。
え~……じゃあ、なんだろう……。
とりあえず、ライブに対する心意気でも送ってみよう。
Jang Color『オレ達負けるつもりないんで! 五億人動員して野見山と結婚……』
ピタッ。
違う違う。
消し消し。
オレは野見山と結婚するためにアイドルグループを運営するわけじゃない。
オレは野見山という誰も気付いていなかった才能を世に知らしめたくて運営してるんだ。
そう、彼女の才能、ポテンシャルが誰にも見つけられずに埋もれていくのが──。
『もったいない』
そう思えて。
と同時に、これまでオレが見届けてきた数々の
彼女たちの無念も晴らしてやろうと思ったんだ。
どえらい、誰も見たことのない、すんげ~景色に。
連れて行ってやりたいと思ったんだ。
オレと、野見山と、湯楽々と、そして今では満重センパイやルカミカ先輩と一緒に。
五億人の大観衆。
世界中のアイドルが誰も見たことのない、そこを目指して。
スタタタッ!
素早く文面を打ち直す。
Jang Color『オレたち負けないんで! ご心配は無用です!』
霧ヶ峰リリ『心配……』
うん、ここらでいっちょ軽く嫌味でも入れて仕返ししてやろう。
Jang Color『偉大なるアイドルさんに心配してもらえるだなんて光栄です!』
霧ヶ峰リリ『心配なのは、解散後のあなたの進路』
煽りのプロか、こいつは!
解散の心配ご無用って言ってるのに、解散後の進路を心配されちゃったよ!
ちょっと嫌味で返したのに、それ以上の嫌味で返されちゃったよ!
スタタタタタタッ──!
うおおおおお、怒りのパワーで高速文字入力!
Jang Color『まだ高一なんで進路の心配なんて必要ないっす!』
霧ヶ峰リリ『解散したら仕事を
ムキーッ!
マジなんなんだよ、こいつ!
これが日本一のアイドルの煽り力かよ!
ガーッ!
ハァハァ……とにかく返事を返すぞ……。
オレは今までに解散していった地下アイドルグループたちの無念を勝手に背負って立ってるんだ。
みんな、オレに力を分けてくれ~!
Jang Color『じゃあ、動員勝負で勝ってグループ存続が決まったら、新メンバー募集のオーディションすると思うんで! 霧ヶ峰さん、それ受けに来ていいっすよ!』
よっしゃ!
ぎゃふんだろ、こりゃさすがに煽り力も日本一なアイドル様もぎゃふんだろ!
霧ヶ峰リリ『わかりました』
スカされた~~~~~!
煽り力だけじゃなくて、防御力も高ぇ~~~~~!
霧ヶ峰リリ『あ』
霧ヶ峰リリ『ヤバい』
霧ヶ峰リリ『消して消して』
霧ヶ峰リリ『けしけし』
そう言い残すと、霧ヶ峰リリのメッセージが次々と消えていった。
ああ、あれか、バレたら賠償請求の。
オレもメッセージを消していく。
ただでさえ経費が
これ以上、数千万もの借金を背負わされるだなんてまっぴらごめんだ。
ポチポチポチポチ。
よし、消し終わった!
ふぅ~。
よし、逆に怒りでやる気が湧いてきたぞ!
こうしてオレは制作途中だった楽曲を、一気に夜中のうちに作り上げた。
それから。
ルカ先輩の協力の元、新衣装、デジタル手書きのイラスト、ロゴも完成し。
アー写を新しく撮り、ピックポックでも告知を重ねた。
ポイッターでも満重センパイを紹介し、フォロワーも1000人ほど増えた。
けど、まだだ。
まだ足りない。
オレたちは練習を重ね。
ピックポック、ポイッターでの告知。
秋葉原でのビラ配りを繰り返すうちに。
あっという間に九日間が過ぎ──。
勝負の日。
五月五日(日曜・祝日)。
秋葉原神田明神ホール。
キャパ700人。
対バンライブ名『ニュー・アイドル・リーダーズ・パーティー Vol.21』の。
その日が、やってきた。
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