第41話 帰宅即妹
野見山との結婚の約束(付き合ってすらいない、キスすらしていない、しかも五億人を動員したら結婚だなんていう超プラトニックかつ夢物語のような約束)をした後、ふわふわとした足取りで家へと戻ってきたオレを迎えたのは、妹のうるるだった。
ドタドタドタ!
「兄貴! 『パラどこ』と解散を賭けて動員勝負ってマジ!? あっちのプロデューサーがオタクに言いふらしまくってるらしいけど!」
まるで主人を出迎える柴犬かのように駆け寄ってくる妹を見ながら、オレは少しだけ現実に引き戻される。
いつものようにウサ耳パーカーを頭からかぶっているので、柴犬というよりはうさぎなのだが。
「ああ、ほんとだよ」
なんだろう、妹って
遺伝子が近いから?
「異性ではあるけど、血が近いから間違いを起こすなよ」と本能さんが
それとも、シンプルにウザいから?
「マジかよ! 終わったじゃん、兄貴のグループ! 『パラどこ』多分100人は動員してくるよ!? あのきれいな人のグループ終わっちゃうじゃん! せっかく
「おい、お前は兄をどんな目で見てるんだ。オレはそんな不純な動機で運営してないぞ」
といいつつ、実はさっき結婚の約束をしてきちゃったんだけど。
「え~、関係ないって! アイドルと付き合ったり結婚してる運営とかいっぱいいるじゃん! ここに付け込まないと兄貴一生彼女出来ないよ!? 童貞のままだよ!? 一人ぼっちで死んでいくよ!?」
「だぁ~! うっせぇ~! 実の兄貴を童貞呼ばわりするな! 大体お前にオレの何がわかるってんだ! オレは手掛けてるアイドルには絶対手を出さないの! それがオレの元オタクとしてのプライド! それを破るくらいなら死んだほうがマシだっつ~の!」
まぁ、そんなこと言いながらも、五億人動員したらグループ解散して結婚する約束をしてきちゃったんだけど。
「ふ~ん……どうせ解散なんだし、後悔しなきゃいいけど」
「勝手に決めつけるな。それにまだ負けると決まったわけじゃない。オレたちは勝つつもりでやってるし、そのために今から新曲作るんだから。だから、うさぎの格好できゃんきゃん吠えるのはやめて道を開けてくれ。お兄ちゃんは今日も色々あって疲れてるんだ」
「(ボソッ)兄貴のためを思って言ってるのに……」
「ん? なんて?」
「……なんでもない、兄貴のば~か!」
イ~! と色鮮やかなピンク色のベロを出すと、子ウサギうるるはタタタッとリビングに駆けていった。
まったく、本物の小動物みたいなやつだ。
いや、小動物系ってのは湯楽々みたいなタイプのことだよな?
おどおど天然系で守ってあげたくなる感じっていうか。
じゃあ、うるるは小動物ではないな。
なんだろう?
クソガキ系?
まぁ、いいや。
うるるのことなんかに脳内リソースを
さっさと曲作りの続きと、ルカ先輩が加工してくれてる新しいアー写の確認や、残り9日間のスケジュールの見直しもしないとだ。
婚約宣言で浮足立っていた気持ちも、妹うるるのおかげですっかり醒めてしまった。
オレはところどころ
自室。
まずはベッドにダイブ!
ばふんっ!
そしてすかさずノートパソコンとスマホを充電!
コロコロ……!
スチャッ!
ベッドの上を転がって
こういう時だけだな、この部屋の狭さには感謝できるのは。
(そういえば野見山ってどことなくお嬢様っぽいけど、やっぱ広い部屋に住んでたりするのかな)
たしかピアノを習ってたとか言ってたような気がする。
あのシャンと張った背筋も、どことなくバレリーナっぽい。
いろいろ習い事も受けてそうだもんなぁ。
オレなんて小学校の時に剣道やってただけだったよ。
習った理由は「かっこよさそう」だったから。
実際やってみたら痛い、寒い、
道場の中でも一番弱かったし。
胴とか面とかすごく高かったのになぁ。
親には申し訳ないことしてしまった。
「……よし! 昔を
そう思って充電中のバッテリーがホットホットなノートパソコンを開いた時。
♪ぴろりん
スマホに着信が。
ポイッターの『Jang Color』公式への。
送り主は。
霧ヶ峰リリ。
あの、日本一のアイドルから。
二度目のDMが届いていた。
(ああ、そういえば前も届いてたな。今度はなんだ?)
オレは、充電中のホカホカなスマホを持ち上げた。
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