第35話 勧誘ループ
当たって砕けろって言葉あるでしょ。
砕けました、はい。
満重ナオ「はぁぁぁ? あんたら、あ~んなクソ生意気なこと言っといて、今さらグループに入ってくれ? 頭おかしいんじゃなぁい?」
ギャル「バッカじゃねぇの!? ウチらのピックポックで土下座でもしたら考えてやるよバァ~~~~カ!」
姫カット「言っとくけど、こっちはマネタイズもマーケティングも出来てるプロピックポッカーなんだよね。一回ライブやっただけの、しかも一曲しかオリジナル曲もないようなカスグループに入るメリットねぇ~んだよ。普通に考えてわかるよね? ってか、よく私たちの前にノコノコ顔出せたもんだな、こいつら。恥ずかしくないのわけ?」
こんな感じ。
ごもっともって感じ。
あんだけ「あんたらのフォロワー数は生きた数字じゃない」なんて言って散々イキり散らしたわけだから、オレたち。
オレたちっていうか、ほとんどオレが。
その仕返しにされたことといえば。
オレが電柱に貼ってたチラシをビリビリに引き裂かれたことくらい。
なんだろう、ミオ天使にやられたことや楽屋泥棒に遭ったことと比べたら、鼻で笑っちゃうような。
へそで茶を沸かしちゃうような。
そんな可愛らしい仕返し。
あの時のオレは、主に野見山を馬鹿にされたことに対してキレた。
それはきっと、まだなにも歩みだしてなかったから。
自分たちの信念やプライド。
それが全てだったから。
だから、それを馬鹿にされて、オレは全力で立ち向かったんだ。
でも、今のオレたちは、もう歩き出してる。
信念やプライドを基礎として。
その基礎の上に「湯楽々」「オリジナル曲」「初ライブ」という経験値を積み上げて。
オレたちは、高く、遠く、早く歩きはじめてるんだ。
かと言って、土下座ピックポックを撮らせるなんて愚行はしない。
マネージング的にも、そんなことしたら動員力勝負をする以前に終わりだ。
そもそも、いくら歩き出したとは言っても、基礎の部分のプライドがポッキリ折れたら積み上げたものも全部崩れちゃう。
ってことで、土下座はなし。
そのうえで。
「満重ナオに入ってもらう、ってことよね」
「ああ、そうだ。こっちのプライドは折らない。でも、煽ったことは謝る。そのうえで、グループに入ってもらう」
「しかも、なるべく早いうちに……ですよね」
「そうだな。勝負は二週間後。正確には来週の日曜だから、あと十二日後。一日でも早く入ってもらって練習と宣伝をしたいところだ」
満重ナオたちから追い出されたばかりの視聴覚室の前。
そこで、オレたちが作戦会議をしてると。
ガラッ!
「だぁ~! てめぇら、うっせぇんだよ! さっさと帰れ、一年坊!」
中にいたギャル──ミカちんにキレられてしまう。
ってことで。
授業の合間。
昼休み。
さらに、また授業の間。
そして放課後。
オレたちは、延々満重ナオへの勧誘ループを行った。
「ちょっ! お前ら、なんなんだよ! しつこいんだよマジでっ!」
うざがられようが、逃げられようが関係ない。
押してダメなら引いてみてるような時間はオレたちにはないんだ。
押して、押して、押しまくる。
じゃないと。
オレたちは動員勝負に負けて、『Jang Color』も解散。
野見山に五億人の景色を見せることも。
湯楽々の東京ドームを満員にする夢も。
オレの、散っていった地下アイドルたちの無念を晴らすという想いも。
何もかも叶わず終わってしまうことになる。
やらずに後悔するより、やって後悔した方がいい。
もっと時間があれば順序を踏んでメンバーを増やして、オリジナル曲を増やして、ライブ出演を経て、大きくなってくことが出来ただろう。
でも、今のオレたちは。
満重ナオにすがるしかないんだ。
とはいえ。
「逃げられちゃいましたね……」
放課後。
さすがに家まで行くのはやりすぎだろってことで、満重センパイたちに逃げられたオレたちは、河原に移動し練習を開始。
まず最初に昨日の特典会での売り上げ金の分配。
売れたチェキ券七枚。
一枚千円で計七千円の売上。
なんだけど、二人に昨日の交通費分だけ渡して、あとは経費分の返済に
チェキカメラやチェキフィルム、さらに音源吸い出しに使ったカラオケ屋の料金から、衣装代などなど。
いくら手軽に始められる地底アイドルとは言え、ランニングコストを回収し切るのもなかなか大変そうだ。
しかも、オレには野見山から個人的に買い取ったノートパソコンの借金分もある。
これは……なかなか先が思いやられるな……。
このまま解散ってことになってしまったら、オレに残るのは借金だけってことに。
いや、そうならないためにも!
しっかりやるべきことをのこされた時間でやっていくだけだ!
ってことで、昨日の反省会。
昨日来てくれてたお客さんの一人が撮影した『ゼロポジ』の動画をポイッターに上げてくれてたので、それを何度も見返しながら修正を重ねていく。
それから、今日は早めに練習を切り上げた。
で、秋葉原に移動。
秋葉原で何をするかというと。
ビラ配り。
これが意外と動員に繋がる。
しかも二週間後にライブをする秋葉原で配ることによって、効果も期待できる。
交通費がかなり痛いが、こればかりは致し方がない。
アイドルライブが行われてるライブハウス周辺を回遊しながら、オタクっぽい人たちに急遽作ったチラシを配っていく。
受け取ってくれた人とは、お客さんのスマホでツーショットサービス。
玄人なオタクの多い秋葉原において、ほぼ素人で、しかもJKな二人の人気は高く、一回りする前に用意したチラシは全てなくなっていた。
「はわわぁ~、目が回りましたぁ。いっぱい写真撮られましたけど、これでファンの方増えてくれるでしょうかぁ~」
「増えてくれる、じゃなくて増やしにいこう。あとで二人の個人アカウントも作って、今日撮ったツーショットをアップしてくれてる人に『いいね!』を付けて回るんだ」
「もちろん、昨日のお客さんにもね」
「そうだな。あ、でもDMとかリプライとかはしなくていいからね。そこまで気を回すとさすがに気疲れして……って、うわっ!?」
急にソデを野見山に引っ張られる。
「な、なに!?」
「しっ! 白井くん、あそこ見て」
「あそこ……?」
指さされた方を見ると、頭にスカーフを被ってデカいサングラスをかけた女がコソコソと物陰に隠れている。
「えっと……あの怪しい人がなにか?」
「あれ、満重ナオよ」
「いっ!?」
えちえちもちもちな色白太腿JK。
確かに言われてみれば、満重センパイに見えないことも……。
っていうか、なんでわざわざあんな怪しい格好を?
「どうやら誰かをつけてるようね」
「誰かって?」
「それを今から調べるのよ! そして、弱みを握って──」
野見山の目がキラリンと光る。
「あっ、それでお願いするんですね!」
「お願い? いいえ、お願いするだなんて願い下げ。私たちは、満重ナオ弱みを握って、付け込んで──そして脅すのよ! 向こうから加入させてくださいと言ってくるまでね! ふふ……ふふふふふ……!」
Oh……満重パイセン……。
どうなら、あなたはとんでもない女を敵に回したようです……。
俊敏な身のこなしで後をつけていく野生の野見山を横目に。
なぜだかオレは、満重ナオの方をにわかに心配し始めていた。
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