3人目のメンバー
第34話 勝ち目
「あ~、ほんっとムカつく!」
野見山がベンチをガンっと足で蹴り飛ばす。
ジィ~ンという振動が、オレたちのお尻に伝わってくる。
初ライブから一夜明けて。
学校の昼休み、裏庭、ベンチ。
いつもの場所でのオレたちの話し合いは、野見山のキックオフから始まった。
「愛さん、昨日は大変でしたね……」
「大変どころじゃないわよ! 大を超えて超変! いや、極変くらいはあるわねっ! なによ! いい年してぶりっ子して! あの年増! 絶対にギッタンギッタンにノシてやるわ!」
そう言ってフーフーと猫のように息を吐く野見山。
「まぁまぁ、とりあえず……座ったら?」
フンッ! と鼻息を鳴らして野見山はベンチに腰掛ける。
校舎裏に置かれた三人掛けのベンチ。
誰が置いたのか少しファンシーな造りのそれ。
かなり色褪せていて、ガサガサとした質感が目立つ。
そこに湯楽々、オレ、野見山という並びで座るのがお決まりとなっていた。
まぁ、女子と距離が近い……というか、たまにお尻が触れたりもする。
不可抗力。
仕方がないんだ
三人掛けだから。
そこに三人で座っているのだから。
だから。
仕方がない。
決して不埒な気持ちはない。
運営として、毅然とした気持ちで座っているんだ。
うん。
と、言ってるそばから湯楽々の体がムニッと当たる。
「あ、今日はパンなんですね、愛さん」
「ええ、そうよ、ムカつきすぎてお弁当なんか作ってられなかったわ」
「え、野見山って自分で弁当作ってたの?」
「ええ、そうよ、悪い?」
野見山はパンの袋をパンッと音を立てて破る。
「いや別に悪くはないけど、スゴいなと思ってさ。ほんとになんでも出来るんだな、野見山」
「別になんでもは出来ないわよ。ただやってるだけ。誰でもやれば出来るでしょ、お弁当作りなんて」
褒められて照れたのか、少し頬を染めた野見山はソーセージ入りの惣菜パンを飲み飲み込んじゃうんじゃないかって勢いでパクつく。
「でも、愛さん元気でホッとしました。昨日はずっと黙り込んでたから」
「チャットでも返事なかったからな。教室でもずっと無視されてたし」
「もぐもぐ、それはへ……もぐもぐもぐ……ごっくん。それはね、考えていたからよ」
「なにを?」
「決まってるじゃない」
キラーン。
野見山の目が、野生のイリオモテヤマネコのように光る。
「私達の──勝ち目についてよ」
「勝ち目、か……」
二週間後に行われる『パラどこ』との動員勝負。
それに負けた方のグループが解散。
絶対に負けられない戦いだ。
とはいえ。
オレたちの今のファンの数は……。
「0、なんだよなぁ……」
ファン数も0なら、勝ち目も0。
それがオレたちの現状だ。
「で、いくつなの? 向こうは」
いくつ。
相手の動員力。
『30』『12』『6』『7』『21』
目に焼き付けたから覚えてる。
いつか越えようと思って睨みつけていた数字。
それがまさか、こんなに早く超えなきゃいけないことになるとは。
「66ね! なんとかいけそうじゃない!?」
「いけそうかぁ? 66って地底アイドルとしては結構多い方だぞ?」
たとえば。
ワンマンライブをやっても10人や20人しかお客さんが集まらない。
なんてことも地底ではザラ。
オレ自身、オタクとして客一人を動員することの大変さは身をもって理解している。
「ちょっといいな」と思わせる程度じゃ、オタクは来てくれない。
「うおおおおお! めちゃくちゃいい! 最高っ!」と思わせないと、オタクは来ないし、お金も落とさない。
そして、そう思ってもらうためには「見つけてもらうための期間」というものも必要だ。
つまり。
「時間がなぁ……」
足りない。
全然足りない。
いくら野見山が将来的に5億人動員できるポテンシャルを持っていようと。
いくら湯楽々に美しい歌声と、珠のような肌があろうと。
オタクに「見つけてもらう」ための期間が圧倒的に足りない。
もしかしたら半年後には50人。
一年後には200人くらいを動員できるグループになってるかもしれない。
それくらいのポテンシャルは十分にあると思う。
でも、二週間後に66人は……。
「そう……時間がないのなら、もう方法は一つしかないわね」
パシュンッ! っと野見山は食べ終わったパンの袋を叩き潰す。
「あ、もしかして、勝負の日を先に伸ばしてもらう……とかですか?」
「チッチッチッ、違うわよ、ゆらちゃん。そんな敗北宣言みたいなことはしないわ」
「じゃあ、どうするんだ?」
「決まってるじゃない。増やすのよ」
「増やす?」
「ええ、メンバーを増やすの」
「増やすって言っても、あと二週間しかないのにメンバー一人増やしたところで……」
ポーンッ。
野見山が丸めたパンの袋を真上に高~く蹴っ飛ばす。
「私達が今動員を持っていないなら、持ってる人をメンバーに加えればいいだけ」
「は? そんな人が都合良くいるわけ……」
いや……。
いる。
一人だけ。
「そう!」
パシッ!
宙から落ちてきたパンの袋を野見山が右手でキャッチする。
「メンバーに加えるわよ! 200の女!」
グシャッ。
袋が、さらに潰れる音がした。
「満重ナオを!」
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