第22話 作れ、オリジナル曲!
「オリジナル曲を……作る?」
「ええ、そうよ」
そう言って、野見山がにっこりと笑いかけてくる。
「いや、ムリでしょ……ライブまであと六日しかないのに……。それにオレ、ソフトとかパソコンとか使い方わかんないし……」
さすがにこれは不可能……。
パソコンの操作自体一週間で覚えろって言われても難しいと思う。
スマホで育ってきたオレだぞ?
パソコンなんかわかんねぇっての。
「あら、大丈夫よ。だって──」
ニィ──。
意地の悪い笑顔。
「『出来なくてもいい』んでしょう? なぜなら地底イベントに来るお客さんが『マニアック』だから。だったら、たとえそのオリジナル曲がダメダメだったとしても、『奇跡を目撃した』と言って喜んでもらえるのではないのかしら?」
うぉぉぉ……野見山ぁぁぁ!
昨日オレの言ったことを、そのまま返してきやがる!
ああ、言った。
オレは昨日、「ダンスを出来なくてもいい」って言ったさ。
でも、それは逸材である美少女だからこそ許されることであって……!
素人が作ったクソしょぼい曲が許されるかどうかってのとは、またわけが違う。
特に地底イベントなんてのには、妙に耳の肥えた通称『楽曲派』なんて連中も来やがりがちなわけで。
もし、そいつらに「 Jang Color の曲はクソ! 絶対上がり目なし! 結局ただのバズ狙いのガキのお遊びだった!」なんて拡散された日には、大きく出鼻をくじかれてしまう。
ただ……それをそのまま説明しても『厄介度:SSS』の野見山が素直に聞くとは思えない。
きっとプライドの高い野見山は「出来なくてもい」って言われたこと自体に腹を立ててるんだろうから。
「野見山さん……そのノートパソコンどうしたの? もし、このために買ったんだったら返品した方が……。ほら、そういうのはグループとしての運営が上手くいってから経費で買うからさ……」
とりあえず、話をそらしてみよう……。
「あら、これはたまたま私が前から持っていたのよ?」
「え、DTMソフトや音源素材も?」
「ええ、そうよ」
嘘だ。
その証拠に、差し出されたノートパソコンの表面には新品にしかついてないはずの透明の保護シールがぴらぴらと貼り付いている。
「ほんとに?」
「ええ。なに、白井くん? 私を疑うっていうのかしら? それでも私の運営なの? あ~あ、運営さんが信じてくれないようじゃ私達の信頼関係ももう終わりかもしれないわね。白井くんだけは私のことをわかってくれてると思ってたのに。あ~、残念だわ」
「ハァ……」
今、ひとつだけはっきりわかること。
それは、野見山は絶対に引き下がらないだろうということだ。
「わかったよ。このノートパソコンは一週間借りさせてもらう。で、曲も作ってみる。出来るかどうかわからないけどね。それで、今後の活動が上手く軌道に乗ったら、このパソコンをオレがキミから買い取る。DTMソフトや音源素材の分も含めてだ。それでいい?」
「ええ」
野見山は、一瞬目を大きく見開いた後。
「よろしくね、私の運営さん」
と満足気に続けた。
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