第16話 原園高校のふとももエース

「ふぅん、あんたらが今バズってる二人?」


 目の前の女。

 動員力『200』の女。

 机に座ったピックポッカー。

 オレでも知ってるくらいの有名JK。

 動画で見る通りのぷにぷにふわふわ感満載の太ももがミニスカから伸び、座ってる机にむぎゅ~って押し付けられている。


(おぉ……あの太ももは間違いない、動画で見たのと同じ人だ。一緒の高校だってのは知ってたけど、初めて生で見たよ……ってかエッロ!(歓喜) どう生きたらこんなエロい生物に育つんだよ!(混乱) もう太ももが本体じゃん、こんなの!(怒)(錯乱))


 動画で見るよりもはるかにリアルを伴って存在してる目の前の太もも。

 思わずゴクリと唾を飲むと、隣から野見山愛のため息が聞こえてきた。


「ハァ……これはなんなのかしら? 私はてっきりヤンキーに呼び出されて、あんなことやこんなことをされるんじゃないかと楽しみにしていたのだけれど? いたのは太ももを過剰に露出した女がひとり。一体何の用なのかしら? 気分が萎えたので、さっさと済ませて早く帰りたいのだけれど?」


 うぉぉぉ、野見山ぁ……!

 校内カーストのトップに位置するであろう有名人上級生様にも、相変わらずの野見山節……!

 この『厄介度SSS』、いつでもどこでも周りに喧嘩売りすぎィ……!


「アハハ! なにこのメガネちゃん、ウケる! あ~、こりゃ霧ヶ峰リリにも喧嘩売るわって感じ? ってかなに? 何にでも噛みつく狂犬? なんでそんなにイライラしてんの? 先輩の話くらい大人しく聞いたらぁ? ねぇ、一年坊?」


 そう言って足を組み替えるピックポッカー。

 残念ながらスクリーンの光で逆光になってるので、足と足の隙間は見えない。


(うぉぉぉぉぉお! 見えねぇぇぇぇぇぇ!)


 パチッ!


 ピックポッカーが指を鳴らすと、背後のスクリーンに動画が映し出された。

 一昨日のオレと野木山の動画。

 霧ヶ峰リリに啖呵を切ったときのもの。


『霧ヶ峰リリ! いいこと!? 今、あなたが日本最高のアイドルと呼ばれているのは、この私、野見山愛がデビューしてなかったからってだけの話なのっ! だからあなたの天下も、もう終わり! これからは私たち……私たち…… Jang Color の時代よ!』


 おぉ~、この二日間バタバタしててちゃんと見れてなかったけど、こんな感じだったのかぁ〜。

 なんか……まるでドラマの主人公みたいだ。

 ドラマじゃなかったとしたら……相当痛いヤバいやつ。

 そして残念なことに──これはドラマではない。

 なので、当然『野見山愛はヤバい奴』ってことになる。

 ま、そんなの最初に声をかけた日から知ってたけどね。

 動画は、さらに野見山のセリフを映し出す。


『あなたは昨日八千人動員したかもしれないけれど、私は五億よ! 五億人動員するわ! あなたの六倍よ、六倍っ!』


 これもなぁ。

 オレは頭の上に動員力が見えてるから野見山の言ってる意味がわかるんだが、他の人からしたら絶対意味不明だよなぁ。

 五億ってなに? って感じだよね。

 大体五億人を収容できるライブ会場もないし。

 比べるにしてもスタジアムに収容できる四万人とかそういうのだからなぁ。

 きっと世間の目には、野見山はイカれた電波女に映ったことだろう。


『 Jang Color ……。XS……』


 霧ヶ峰リリがそう呟き、動画はプツリと切れた。


(そういえば……この霧ヶ峰リリが言った『XS』ってなんだ? オレの身長のこと? いやいや、いくらオレの背が低いからって不躾ぶしつけに『XS』呼びは失礼にもほどがあるだろ……)


 そうだ、ここ数日激動すぎてすっかり忘れていたが、オレは霧ヶ峰リリとDMしてたんだった。

 もしまた連絡する機会があったら『XS』の意味も聞いてみよう。

 にしても霧ヶ峰リリ……。

 溢れるカリスマ性からは想像もつかないような不思議ちゃんだったな……。

 あの野見山愛の怒涛の煽りも一切気にしてない様子だったし。


「はぁ〜い、今のが一本目ね。じゃ、続けていってみよ~」


 パチンっ!


 太ももピックポッカーが再び指を鳴らすと、今度はスクリーンにオレがデカデカと映し出される。


「いっ!?」


 昨日、オレがカイザル・トリイから湯楽々結良を助けた時の動画。


『ん? 反論はないのか? ないなら……まぁ、こっちも許可は取ってなさそうだからな。おあいこってことで、その子に暴力を振るったことだけ謝れば許してやるよ。いやなら警察に行こう。どうせお互い無許可だ。でも、お前はこの子に暴力まで振るっちまったわけだ。さぁて、一体どっちが悪いことになるんだろうなぁ? カイザル・トリイさん?』


 うぉぉぉ……恥ずかしいぃぃ……!

 滑舌悪いし、この時めっちゃ内心はビビりまくってたし、よく見たら額にめっちゃ汗かいてんじゃん、オレ!

 ちょっと! これ、なんて羞恥ゲー!?

 え、いや、ちょっと待てよ……?

 たしか、このあと……。


『よっしゃ! 勝った! 地下ドルオタなめんな!』


 うおおおおおお!

 恥ずかしーーーーーー!

 誰にも聞かれてないと思ってた決め台詞をこんな大画面で公開されるとかっ!

 ねぇ、これどんな罰ゲームっ!?

 はぁぁぁ……!

 あばばばばばば!

 このまま消えてなくなりたいっ!


 ぱちんっ!


 ふとももピックポッカーの三度目の指パッチン。


 ガーッ。


 閉じられていたカーテンが自動で開いていく。


「うっ……」


 窓から射し込んでくる日の光。

 思わず目を細める。

 薄目を開き、視界が慣れてくる。

 すろと見えてきた。

 目の前で机に座った女。

 ふとももピックポッカーJK。

 動員力『200』の女。

 その姿が、はっきりと。


 自信満々な表情。

 黒髪ロング。

 色白。

 少しあごを上げ、オレたちを見下したように「フフン」と笑っている。

 そして──。


 むっちりちとした、組んだ足。


 そのつま先──臭そうな紺ソックスの先で、履き潰された上履きがぷらんぷらんと揺れている。

 JK特有の野性味と清楚感。

 さらに溢れ出るエロス。

 それらをふんだんにぶちこんで、ぶちまけて、ぐっちゃぐちゃにミックスしたかのような。

 まるで世の『JK』という概念を完璧に具現化したかのような。

 そんな女。


 野見山愛に勝るとも劣らない尊大な態度を取ったそのJKが、ピンクのリップの塗られた唇をぷにっと開く。


「あんた達さぁ、私のピックポックに出てくんない?」

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