第17話 対決、『200』の女!
机の上に座って太ももを「むちり」と組み替える、けしからん太ももJK。
頭の上には『200』の文字が銀色で光っている。
その太ももJKが甘ったるい声で話す。
「一本目の霧ヶ峰リリに喧嘩を売った動画は、ポイッターで五千八百リポスト。二本目の大道芸人を追い払った動画は千三百リポスト。合わせて七千百リポスト。で、ポイッターの他のSNSでもこれらの動画は切り抜きに切り抜かれまくって絶賛拡散中~。すご~い、バズってるぅ~」
イラッ。
完全なる上から目線。
なんだ? 馬鹿にしてるのか?
ちょっとピックポックで有名だからって。
ちょっと太ももがムチムチのムチムチだからって。
オレたちをわざわざ呼び出して、なんなんだ?
こんな芝居がかったことをして、この女は一体何をやりたい?
「あ、ちなみにぃ~、今流した動画を編集してくれたのは動画編集が得意なぁ~、なんでも器用に出来ちゃうルカちんでぇ~す。はい、拍手~、パチパチパチぃ~。ルカちん、いつもありがとぉ~」
その拍手の先には、オレたちをここに案内してきた姫カットの女がいた。
どうやら彼女の名前は「ルカちん」らしい。
姫カット──ルカちんは無表情を崩さずに、でも少しだけ気恥ずかしそうにぺこりと頭を下げた。
「で、本題なんだけどぉ~。ほらぁ、さっきも言ったけどさぁ~、あんたら私のピックポックに出なよ~? あんたらバズってるしぃ~? 私たち結構インプレッション持ってるしぃ~? いい相乗効果生み出せると思うんだよねぇ~。ほら、あんたらアイドルグループやるって言っててもさぁ~、こぉ~んな張り紙貼ってるようじゃ、まだメンバーすら集まってないんでしょ~?」
「あっ、それオレがさっき貼った……」
オレが電柱についさっき貼ったばかりのメンバー募集の張り紙。
それを太もも女は指先で
「ほら、『鉄は熱いうちに打て』って言うじゃん? それってつまり『バズは飽きられないうちにどんどん連鎖させていけ』ってことだと思うんだよね~? だからほら、もっとバズればぁ、いっぱい女の子にも見てもらえてぇ~、あんたたちのメンバーも見つかるかもしれないわけじゃん? ってことでさ、さっそく今から撮ろ~よ? ね?」
……なんだって?
この太もも女たちのピックポックに、オレたちが出る?
たしかに、この子たちはインプレッション──再生数を持ってるかもしれない。
それに『飽きられないうちに次のバズを狙え』ってのもそれなりに説得力のある話ではある。
でも……。
「お断りよ!」
野見山愛の声が響いた。
「はぁ? あんた何言ってんの?」
ダンッ!
机の上から飛び下りる太ももJK。
全体の重量があれなせいか、結構な音が響く。
野見山と太ももの間に緊迫した空気が漂う。
「お断りって言ったのよ。もしかして耳が遠いのかしら? それとも、そんなにふともも出してると頭まで春になっちゃうの?」
「……は? あんた、喧嘩売ってんの?」
ふとももJKの顔からニヤけた笑みが消える。
代わりに、こめかみの血管がピキリ。
「あら、最初に喧嘩を売ってきたのはそっちでしょ? なに? こんな下手なVTRまで作って。それにピックポックですって? ただ年頃の甘ったれた娘が、ぶっといふともも出して踊って、男どもの情欲を煽ってるだけでしょ?」
「はぁ? 誰が甘ったれた娘だって? それにルカの作った映像を馬鹿にしてんじゃねぇよ! それにさぁ……」
太ももJKは大股でズンズンズンと野見山に詰め寄る。
その距離、わずか数センチ。
二人は、デコとデコがぶつからんというところで互いにメンチを切り合っている。
「私、別にぶっとくないんだけど?」
「ぶっといわよ。あまりにもぶっとすぎて、最初見た時、壁かと思って存在に気づかなかったくらいだわ」
「はぁ~あ? そっちこそピーピー吠える鶏ガラモヤシすぎて見えなかったんだけど?」
「まぁ、太りすぎて目が霞んでるのではなくって?」
「お前の方こそ栄養失調で見えてねーんだろ、現実が。ってか、てめぇルカちんの作った映像バカにしてんじゃねぇ、謝れよ?」
まさかまさかの、ただの悪口合戦がオレの目の前で繰り広げられている。
(うおぉ……野見山……お前マジで『厄介度SSS』すぎる……!)
うん、飛んでる。二人の間に。
確実に。火花が。
「あら、お仲間のことは気にかけるのね。案外お優しいじゃないの。てっきり奴隷のように子分を扱ってるのかと思ってたわ。私達には、こんな無礼な呼び出しをかけて、こんな小馬鹿にした映像を突きつけるのにねぇ」
「は? 誰が子分だって? ルカちんもミカちんも大事な仲間なんだよ。いい加減なこと抜かしてんじゃねぇよ、てめぇ。大体さ、上級生様が優しく誘ってやってんだろ? 素直に応じるのが筋じゃねぇのか? てめぇも下級生らしく、もっと先輩を
ガッ!
額がぶつかり合う。
ゴリゴリ……。
そんな地獄のよな音が聞こえてくる。
うぉぉぉぉぉ……マジでなんなんだ、この状態。
いきなり喧嘩腰の野見山も野見山だけどさぁ。
太ももJKも太ももJKで、野見山相手に一歩も引いてねぇ。
姫カット──ルカちんは、映写機のとこで固まったまま。
ギャル──多分今ミカちんって呼ばれた子は、後ろの入口の前で呑気にくちゃくちゃとガムを噛んでる。
このギャル二人が事態を収拾させるってことはなさそうだ。
ってことは、だ……。
(オレが……二人を止めないと……!)
ごくり。
そう思い生唾を飲んだ瞬間、事態は思わぬ方向へと急カーブしてきた。
「っていうかぁ、ぶっちゃけメガネモサ子さんさぁ、私あんまりあんたには興味ないんだよねぇ。だってあんたがバズったのって、単に霧ヶ峰リリに突っかかっていったからでしょ? わかる? あれは相手が霧ヶ峰リリだったからバズったわけ。もし相手がだ~れも知らない人だったら、あんたもバズってない。要するに、あんたのバズじゃないの、あれは。霧ヶ峰リリのバズなの。でも、そっちの男の子のは違う」
(……は? オレ?)
「その子は、だ~れも知らない大道芸人を一人で追い払ったの。論破して。すごいよね? おまけに決め台詞までバズってる。『地下ドルオタなめんな』って。いいじゃん。イタいし見てて恥ずかしくなるけど、カッコいい。子供が大人をやっつける爽快感もある。本物のバズ。この子自身のね。わかる? 虎の威を借りただけのあんたとは違うの。だから私、どっちかというとこの子とピックポックしたいなぁ~」
そう言うと、太ももJKはオレの右腕を掴んで自分の胸に押し当ててきた。
「白井くんっ! あなたがこんな尻も頭も軽そうな女になびくわけないわよねっ!? ねぇ、白井くんっ!?」
野見山がオレの左腕を掴む。
「へぇ~、白井くんって言うんだぁ? ねぇ、白井くぅ~ん? 私とピックポック……しよぉ?」
胸を腕に押し付けて、上目遣い&耳元囁きのトリプルアタックで攻めてくる太ももJK。
「白井くんっ! そんなふしだらな女の色香に惑わされちゃダメよっ! 気をしっかり持ってっ!」
野見山が、ぐぐっと腕を引っ張る。
「ねぇ~、白井くぅ~ん、お願ぁ~い」
「白井くんっ!」
「白井くぅ~~~ん」
「白井くんっっっ!」
ふとももJKと野見山の二人が、ガクガクとオレを揺さぶる。
最初こそ、ふとももJKの胸の感触に「おおっ……!」なんて思ったりもしたもんだったけど……。
ビ……ビ……ビビ……。
こうして揺さぶられているうちに、オレのイライラゲージは。
ビビビ……。
だんだん。
ビビビビビビビビー!
と溜まり続けていた。
「ねぇ、白井くぅん?」
「ねぇ、白井くんっ!」
ふともも、野見山、ふともも、野見山。
ガクガクガクガク。
「白井くぅん!」
「白井くんッ!」
ふともも、野見山、ふともも。
ユサユサユサ。
「私とピックポックコラボ!」
「このふしだら女とピックポックコラボっ!」
二人の声がハモる。
『するのっ!? しないのっ!? どっちなのっ!?』
その瞬間。
とうとうオレは、とうとう──。
ビビ、ビビビビビーン!(ゲージMAX)
「あ~! うるせ~~~~~~~~!」
ブチギレてしまった。
シュゥーン……。
あぁ、MAXまで溜まったイライラゲージが情けない音を立てて下がっていくのを感じる。
けど、一度吐き出したオレの言葉は止まりそうにない。
くそ、こうなったらこのまま一気にやってやろうじゃないか。
アイドルオタク目線での、ピックポッカー論破を!
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