第6話 スカウト開始!

「メンバーを探すんだったら、同じ学校の生徒のほうが活動しやすいわよね!」


 ということで。

 やってきました地元の商店街。

 駅前からまっすぐ伸びた一本道の大通り。

 うちの高校に通う生徒の約六割はここを通って通学すると言われている。


「さぁ、やるわよ! 私達の第二の家族を探しましょう!」


 清楚なワンピース姿の野見山愛が、大股に足を開いて宣言する。


「でも、やるって言っても心の準備が……」


「なに? スカウトでしょ? 道行く女に声をかけてアイドルというアコギな道へと引きずり込むわけでしょ? あなたが昨日、私にそうしたように。それとも白井くん? 私にはあんなに強引に勧誘したのに、他の女は出来ないとでも? それくらい私が安い女ということなのかしら?」


 言葉の内容とは裏腹に、腰に手を当てて胸を張って自信満々な様子で一息に言い放つ。

 一瞬気圧されたオレだったが、アイドルを「アコギな道」だとレッテル貼られるのは看過かんかできない。

 ここはきっちり反論させてもらう。


「……まず、アイドルはアコギな商売じゃない。そりゃアコギなやり方をしてる悪徳アイドルもたくさんいるけど、まともなところだっていっぱいいるんだ。そして……野見山愛、キミは安い女なんかじゃない! キミは、将来五億人を動員する世界一のスーパースターだ! えっと……たぶん……きっと……うん……」


 威勢よく喋ってはいたものの、尻窄しりすぼみになってしまう。

 だって五億って見えてるのも、ただのオレの気のせいなのかもしれないわけで。

 もしそうだとしたら、オレは自分の妄想に他人を巻き込んでるやべー奴なわけで。

 そんな人間が「キミは将来五億人を動員するスーパースターだ!」なんて言ってもなんの説得力もないわけで……。

 なんてウジウジ思考の堂々巡りに入っていると。

 野見山愛がそっと耳打ちをしてきた。


「大丈夫。あなたに見えた動員数の多い子に声をかければいいのよ」


 野見山愛は、オレの正面に回るとおちゃめにウインクをしてくる。

 とたんにオレの心を覆いかけてたウジウジの霧がパッと晴れる。

 アイドルとプロデューサー。

 公私混同だけど……わけのわかんない謎の女だけど……こんな清楚系美少女が耳打ちして、ウインクして、自分の妄想のような能力を認めて背中を押してくれる。

 それだけでオレの世界はオールオッケーの晴天快晴。

 迷うことなくこのまま突き進んでいいんだって思える。


「そうだな……うん。やろう! 尻込みしてる場合じゃないな、当たって砕けろだ!」


「じゃあ砕けたら私がくっつけてあげるわ。米粒でいいかしら? それともセロハンテープ?」


「せめてセメダインくらいでお願いしたいところだね」


 他愛もない会話を交わしつつ周囲をぐるりと見る。

 土曜日の昼ということもあって人出も多い。

 開けた大通りには路上ライブを行っている女性路上シンガーなんかもいたりしてなかなかの賑わいっぷりだ。

 オレは目につく限りの女性の頭の上に浮かんだ数字をチェックしていく。


「2」「5」「3」「6」「3」「2」「4」「8」「5」「1」「2」「4」「5」「6」「4」「3」「2」「2」


 やはりほとんどが一桁。

 五億の動員を誇る野見山愛と一緒のグループに誘うのに一桁はどうなんだろうかと思っていると。


(お、「0」人だ。初めて見た)


 動員数が見え始めてから約二日。

 初めて動員数「0」の人を見かけた。

 しかも路上シンガー。

 自信なさげにあわあわ小さな声で歌ってて、案の定誰も足を止めていない。


(う~ん、動員「0」にたがわぬスルーされっぷり。しかし動員「0」なのに路上シンガーやってるとかどんな因果のめぐりなんだよ……)


 まぁ、当然あの子はなしだな。

 動員「0」だしな。

 珍しいは珍しいけど論外だろう。

 えっと、他には……。


「ねぇ、あれなにかしら?」


 野見山愛が指をさす先。

 なにやら人だかりが出来ている。

 よく見ればテレビカメラマンとかもいる。


「あ~、なんか撮影とかやってるのかな?」


 人垣の数字をチェックしながらそう答えていると……。


「いぃ……!?」


 その人垣の中からチラリと見えた。

 金ピカに輝く。


「8000」の数字が。


「た、たぶんあれ……」


 次の瞬間。

 驚いた表情でこちらを見つめるその女性と目が合った。

 動員力八千の女。

 日本最強最高。

 文句なしの現役トップのカリスマアイドル。


 霧ヶ峰リリと。

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