第4話 あの子は異常なストーカー!?
一夜明けて土曜日。
(夢、じゃないんだよな……)
ちっちゃな自宅のちっちゃな自室。
ベッドの上に寝っ転がって、オレは昨日のことを思い出していた。
昨日、オレは野見山愛の腕を掴み。
アイドルをやらないかと勧誘し。
校舎裏で壁ドンされてOKの返事をもらうも。
いきなり野見山愛の【隠しステータス】とかいうのが見えるようになって。
しかも、それが『厄介度SSS』で……。
(なんだよ、【隠しステータス】って。しかも『厄介度SSS』ってさ……)
オレはまだ地に足が着かないふにゃふにゃ状態のまま、ベッドの上をゴロゴロと転がる。
(にしても、野見山愛……。興奮して喋りまくった直後にさっさと一人で帰っていったけど、え? これからオレたちってどうなんの……? アイドルやるとかやらないとか以前にさ、月曜になって隣の席で顔合わせるのが気まずすぎるんだけど……)
ゴロゴロゴロ。
ゴロゴロゴロ。
消化不良で終わってしまった昨日のモヤモヤ。
それをゴロゴロして解消していると、階下から妹さららの声が聞こえてきた。
「兄貴~!? なんか綺麗な女の人が来てるんだけどぉ~!?」
「……は?」
きれいな人?
まさか……。
ドタドタドタと階段を下りていく。
ガチャ。
玄関開けたら、いた。
昨日、オレに壁ドンをした女。
五億の女。
厄介度SSSの女。
オレのクラスメイト。
野見山愛が。
「おはよう、白井くん。来ちゃった」
そう言って、にっこりと小首をかしげる。
今日はあのふざけたメガネをかけていない。
私服だ。
すっきりとしたワンピース。
髪もきれいにポニーテールにまとめている。
毛先がウェーブなんかしちゃってたりもしてる。
濃くはないが目鼻立ちのはっきりする化粧までしてる。
ぱっと見じゃ、あの野見山愛とは絶対に誰も気づかない。
それくらい完全に別人。
でも、昨日五センチの距離でずっと見ていたオレにはわかる。
というか、今も頭の上にキンキラ輝く『5億』の数字。
そして『厄介度SSS』の吹き出し。
間違いない。
これは──野見山愛だ。
「き、来ちゃったって……? えと……オレ、家の場所教えてないよね……?」
「大丈夫。知ってたから」
「し、知ってた……?」
「ええ。当校の生徒数三百十六人。入学以来すべての生徒の前で変わった行動を取ってみたわ。ほんの些細な行動を。例えば、その人の前ではずっと舌を出したまま過ごしてみるとか。その人の前ではずっとつま先立ちて立ってみるとか。そういう些細なことをね。その中で私の変化に気を留めたのは、あなた含めて三人だけ。その三人の名前、住所、家族構成、世帯収入、血筋、等々すべてまるっと調べ上げているの。だから、白井くんのお宅にお伺いすることなんて朝飯前の屁の河童だったわ」
は?
何言ってんの、この人……?
全生徒の前で変わった行動?
それに反応したのが三人?
その三人について調べ上げてる?
「スト……」
ストーカー? と言おうとした時。
カツカツカツとつっかけを鳴らして家の中から母、節子が出てきた。
「あらあらまぁまぁ! こ~んな可愛らしいお嬢さんがウチのを尋ねてくるだなんて長生きはしてみるもんね! ささ、お嬢さん、よかったら上がってください! 狭くて汚くて臭い家ですけど!」
「臭いは余計だろ、臭いは。狭くて汚いのは事実だけど」
「うるさいわね、あんたが臭いのよ! 毎日のように汗だくになって帰ってきて! もぉ~、おかげで家の中が汗臭いったらありゃしない!」
「はぁっ!? そんなに汗かいてないだろ、普通だよ普通! 普通の思春期の青年の匂いだよ! 大体、現場から帰ってきたら汗くらいかくっつ~の!」
「はいはい、わかったからさっさとお客さんに上がってもらいなさい! こんなところに突っ立たせてたら可哀想でしょ!」
あっ──。
つい野見山の前で馬鹿みたいな口喧嘩をしてしまった。
そう思って振り返ると。
「クスクスクス……!」
野見山が腹をよじって楽しそうに笑っていた。
「白井くん、お母様と仲がいいのね。とっても羨ましいわ。あ、お母様、わたし白井くんのクラスメイトの野見山と申します。今日は今後の活動の打ち合わせでお伺い致しました」
「活動? 文化祭かなにかあるのかい? まぁ、なんでもいいから早く上がって上がって!」
「はい、お邪魔します」
野見山は上品にぺこりと頭を下げると、とうとうオレの自宅──マイテリトリーへと侵入を果たしてきた。
いいとこの育ちなのか、玄関でかがんで自分の靴を揃えている。
しかも、その靴がなんかもうウチの安物製品たちとはまったく違う高貴なオーラを発しまくってる。
場違い感がハンパない。
やんごとない人が庶民の家に来ちゃったみたいな感じ。
「じゃ、お母さん、今からフラダンス行ってくるから! さららもバイトに出かけたみたいだし、お父さんも用事で実家の方行ってるから! ちゃんとあんたがお茶出すんだよ! それじゃあね、行ってきます!」
「はぁ~い、行ってらっしゃいませ、お母様♡」
手を後ろに回し、
(…………え?)
つまり?
オレは、これからお嬢様バージョンの野見山と誰もいない自宅で二人きり……ってコト?
「さぁ、白井くん。たっぷり楽しみましょうねぇ? これからの
にっこりと笑いかけてくる野見山愛。
その笑顔に、オレの心はざわついた。
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