第66話 美少女JKモデル、ガチで世界にケンカ売る①


 美女たちはひとりずつ前に出て、順番にパフォーマンスを披露していく。


 三次審査で歌を歌った、ガチで歌の上手い子は、その特技を本選でもゴリ押ししてた。

 でも、観客の反応は鈍い。

 なんでだろ、なんて思ってたら、その後にステージに出ていった節子によってハッキリわからされてしまった。


 節子が姿を表すと、なんのたとえでもなく、いくつもの悲鳴が起きた。

 舞台の影から校庭を盗み見ると、絶叫するファンのなかには、過呼吸でホントに崩れ落ちてる子が複数人いる。


 顔ひとつ出しただけで、前の候補者を叩き潰してしまう。


 そう、ここはミスコン。

 節子がいつか言っていた『容姿の力』がすべてを支配する世界なのだ。

 

 彼女の凛とした後ろ姿は、その力の強さと恐ろしさを、無言で伝えてきてるみたいだった。

 前の世界でウチがその怖さを知らなかったのは、運が良かったからなだけ――

 ステージで輝くブサイクで美人な女によって、ウチはそれをようやく理解した。


 節子がアピールを終え、待機組の対岸へ降りていくと、すぐにMCからウチの呼び出しがかかる。

 でも、ウチはわざと待つ。

 まだ、観客の熱が高すぎる。


 MCがもう一度コールし、観客がざわめきだしたのを待って、ステージのど真ん中に進み出た。


 その途端、校庭がシンと静まり返った。

 まるで、お祭り騒ぎの文化祭から、この野外会場だけが切り離されたみたいに。

 

 生徒たちは、三次選考で起きたことをみんな大概知ってた。

 紗凪とウチがセットだったことも、紗凪がそのせいで不登校になったことも知ってる。


 事件の関係者であるウチがなにを言い出すか、全員が待ってる。


「山崎さーん!」


 声援が、ひとつ飛んだ。

 目をやると、三次審査の後に家庭科室にまでやってきた、ファンの女子生徒だった。

 ウチがなにも言い出さないうちから、顔をクシャクシャにして泣いてる。


 地上には、他にも色んな人間がいた。


 感極まってるヤツ、バカにして嘲笑ってるヤツ、他人事として楽しもうとしてるヤツ、敵意を込めて睨んできてるヤツ。


 色んな顔が、初めて認識できた。


 ウチは、それらの向けられた感情を……持て余す。

 今まで自分が戦いを挑んでたものが、どんなに複雑で繊細な問題だったのか、ようやく実感した。


 ウチは、マイクを口元まで持ってくる。


 言いたいことがあった。

 この世界の常識がなかったウチだから言えること、カーストの上も下も体験したウチにしか言えないことを、伝えないといけない。


 それが、ウチが紗凪にできる唯一のことだから。


「お前らさ」


 ウチは居並ぶ観客全体に向かって言った。

 

「カクテイシンコク、したことあんのかよ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る