第61話 美少女JKモデル、敵と向き合う②


 まる子は変わらない笑顔で首を傾げる。


 ウチは躊躇なく、ポケットから例の電源タップを取り出し、彼女の前に突き出した。


 それは、証拠品としてジップロックに入って保管されてる。

 その扱いだけで、どういう意味かはわかるだろう。


「お前、ウチらを盗聴してたろ」


 彼女は、ウチの前置きのない言葉にも、顔色を少しも変えなかった。


「なんの話?」

「これ、家庭科室でアンタが見つけたやつだよね。調べてみたら、中から盗聴器が出てきた。アンタ、隣の部屋でウチらの話聞いてたでしょ」

「え、濡れ衣だって。なにそれ。全然知らないよ」


 あえてなのか、隠し通せると思ってるのか、手を振って白々しく答える。


「んじゃ、なんでアンタ、あの不良と一緒に隣の部屋にいたのよ」

「別に、仲良しだから一緒に音楽聴いてただけだって」

「おかしいでしょ。教室で聴けよ」

「そうかなぁ、どこにいてもいいと思うけど。っていうか、その盗聴器? がアタシのものだって、どうして思ったの?」

「アンタの鞄から出てきたからだけど」

「えっ⁉︎ アタシの鞄勝手に漁ったの⁉︎」


 彼女はわざとらしく驚いてみせる。

 自分のしたことは棚に上げて、ウチらのことを責める気らしい。


 ……実際、一から十までしらばっくれられてしまえば、ウチらになす術はない。


「それにさ。もしそれがホントにアタシの鞄から出てきたとして、それが家庭科室にあったって証拠はどこにあるの? アタシが盗聴器を持ってるキモい女だってことにはなるかもしれないけど、山崎さんたちの会話を盗聴してたかってのは、わからないよね?」

「うっせぇな……素直に認めろよ……」

「じゃあ他に証拠あるの?」

「……」

「ないんだ」


 苦し紛れに、ウチは下を向く。

 すると、彼女がわずかに勝ち誇った空気を放った。

 ウチらに勝ち目がないって、確信したのだろう。

 被害者ヅラしながら、内心では喜んでるのが肌でわかる。


 ……作戦通りだった。


 今、ウチがわざわざまる子の前でへこんで見せたのは、ふつーに演技だった。

 よしひとに事前に指示された動きだ。


 確かにウチらには、武器がない。

 持ってるものは全部ジョーキョーショーコってやつで、どう頑張っても、まる子が犯人だってのは証明できないらしい。


 だからこそ、まる子に勝ったと思わせて、口を滑らせること――それだけがウチらにできる唯一の作戦だった。


 問題は、彼女が白状するまで、ウチが調子に乗らせ続けないといけないってことだけど……


「あはっ! 酷いなぁ、山崎さん」


 まる子は気持ちよさそうに手を広げた。


「無実の人を疑うなんて。傷ついちゃうよ。それに、アタシ運営側の人間だし。どうして自分でミスコン潰すようなことしないといけないの?」

「こっちが聞きてぇよ。アンタなに考えてんの?」

「だから、やったていで話進めるのやめてってば〜。心外だよ〜」

「ウチが紗凪をイジメてるって噂流してたのもお前だろ。二次審査のときに、野次飛ばさせたのもお前だ」

「なんの証拠があるの? 頑張ってたのに犯人扱いなんて、悲しいな……」


 そう言って本当に悲しそうな顔をするまる子に、ウチは奥歯を噛み締めた。


 口を滑らせる気配はない。

 頭がよくて、狡くて、油断しない。


 バカなウチが、勝てるんだろうか……

 どうしたらいいんだろう……紗凪……


「あはっ。どうしよね」


 心が読まれたかと思った。


 驚いて顔を上げると、彼女はウチを見てなかった。

 目線はウチの背後に向けられてる。


 嫌な予感がした瞬間――首が太い腕で締め上げられてた。



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