第62話 美少女JKモデル、敵と向き合う③


「……ッ!」

「酷いよなぁ、勝手に犯人にしてくるなんて」


 息が苦しい。

 ウチは窮屈なスペースで身を捩って、頭上を見上げる。


 茶髪のデカ女がそこにいた。

 まる子と一緒に、家庭科室の隣にいた奴だ。


 節子の取り巻きのなかでも一番でかいコイツに首を絞められては、抜け出すのも簡単じゃない。


「ブスお前知ってる? そういうの冤罪って言うんだよ?」

「なにが……ッ! お前らがやったんだろ! ウチは知ってんだよ!」

「ウチは知ってんだよ!」


 彼女はウチの口真似をして、ゲラゲラと笑った。


「お前みたいな勘違いブスの言うことなんか、誰も信じねぇよ」

「うる――」


 叫ぼうとした瞬間に、首がさらに締められる。

 声どころか、息さえ止まって、段々頭が白くなってきた。


 まずい……このままじゃ、落ちちゃう……


「まる子ぉ。呼んだのはこれ?」


 不良がウチをガッチリホールドしながら尋ねる。

 目の前に来たまる子は、腕を組んでウチを眺めてた。


 そこには先ほどまでの明るさはない。

 代わりに、人が変わったような冷たい視線があるだけ。


 これが彼女の素顔か……


「うん、怪しかったから一応ね〜。でも、別にひとりでもなんとかなったみたい。山崎さん、アタシがやったって叫ぶばっかりだったからさ」


 彼女は小さくあくびする。


「つまんなくて、ちょっとガッカリ〜って感じ?」

「なら行こうぜ。こんなガリの相手してんのダルいし」

「あはっ、そうだね」


 まる子が頷くのが、視界に映る。

 霞んで消えかける意識のなかで、ウチは密かに笑った。


 今の会話も、当然録音してある。

 直接白状はさせられなかったけど、不良との繋がりも、ウチに直接暴力を振るったことも記録できた。

 会話からして、ワルなのはダダ漏れだ。


 全部バラしてやる。

 お前らが紗凪にやったように……


「さてと。暴れないようにちょっと抑えてて」


 まる子は一言呟くと、組み付かれるウチへ近づいてきた。


 さらに首に力がかけられる。

 ガチで呼吸困難。天国行きそう。


 白い靄の先で、まる子はウチの体をまさぐり始めた。


 その意味に気づいて、冷や汗が流れる。

 残ってる力で蹴飛ばそうともがく……けど、もう遅い。


 彼女がウチから離れたときには、その手にはウチの録音機が握られてた。


「やっぱりね」


 まる子はつまらなさそうにウチらの武器を振って呟く。


「こんな無謀な特攻してくるなんて変だと思った」

「うわ、盗聴してたの? クソ野郎じゃん」


 不良の意地悪い声が頭上に聞こえる。

 顔を見なくても、ニヤニヤしてるのがわかる。


 まる子が停止ボタンを押すと、録音機が止まった。

 ウチの心からも、光が消える。


「山崎さんの言う『証拠』も一応回収しておくね、後でイチャモンつけられると嫌だからさ。あと、スマホも録音機能あるから、なんとかしようか」


 次々に言って、まる子はウチの制服からスマホを抜き出す。

 そして、


「あ、でも盗んだって言われちゃうと面倒だなぁ……うん、そうだっ!」


 彼女は思いっきり振りかぶると、スマホを管理小屋のコンクリの角に叩きつけた。

 

 バキ――ッ!

 

 ガラスが割れた音が棟の裏に響き渡る。


 まる子は、汚れた雑巾みたいにそれを拾い上げて状態を確認すると、もう一度地面に叩きつける。

 そして、管理小屋の奥に向かって、水の溜まってるバケツのなかに破壊したスマホを投げ入れた。


「あはっ、落ちちゃった。買い直したほうがいいと思うよ、山崎さん」


 振り返った彼女の表情は、キラキラと輝いて見えた。

 ウチは、怒るよりも先にゾッとした。


 これが……彼女がウチに抱いてた恨みなんだ……


 首を絞める力が少し緩んだ隙に、ウチは息継ぎと共に声を出した。


「なんで……そこまですんだよ……ウチらが……お前になにかしたのかよ……」


 まる子はウチを冷たく見下ろしてる。


「……した」


 その氷の像みたいな姿は、地獄の底みたいに冷え切ってた。


「何度もアタシをバカにした」



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