第58話 美少女JKモデル、敵を知る②


 うるさすぎる。

 ウチは顔を顰めた。

 

 もう、電話を口の前に置いてわざと怒鳴り散らしてるんじゃないかと思うほどだ。

 あまりの音量に、罪悪感とか悲しみとか、ちょっと引っ込んじゃったし。


「ちょ、なに? もうちっと静かに言ってくんね?」

 ――紗凪さんの配信流した犯人がわかったっス! 秘密を知った方法も!


 よしひとの声は、興奮してた。

 声量は数段小さくなったけど、それでもデカすぎてウチらしかいない空間に全部ダダ漏れてる。


「犯人って三次選考のよね? 誰だったの……?」


 節子が、横から口を挟む。

 すると、よしひとが再び叫んだ。


 ――え、誰っスか今の‼︎

「千代田です。二年の」

 ――ち、千代田節子⁉︎ うわぁッ‼︎


 叫びとともに、電話口からけたたましい騒音が響いた。

 物かなんか落としたらしい。


 呆れる。

 いちいち大袈裟すぎんだよ、美少女ごときで……


「いいから早く続き言えって……なにがあったの……」


 ウチが電話に向き直って促す。

 すると、ガタガタとなにかを片す騒音とともに、よしひとが再び叫んだ。


 それは思わぬ言葉だった。


 ――紗凪さんを罠にかけた犯人がわかったっス! まる子さんだったっス! 全部あの人の仕業だったんスよ!

「は? まる子……?」


 想像もしていなかった答えに、ウチは怪訝に聞き返すしかなかった。

 乙田まる子。

 インタビューとかで度々顔を合わせた、ミスコンの広報担当だ。


「なんでアイツがそんなことすんのよ。運営側じゃん」


 ――知らないっす。でも、証拠があるっス。


 よしひとは興奮したまま早口で喋り出す。


 ――この前りりあさん、まる子さんが不良の人と一緒にイチャついてたって言ってたじゃないっすか。あれ、変だなと思ったんスよ。だって、普通秘密の相手と密会するのに、家庭科室の近く使うっスか? あっしらが毎日作戦会議に使ってるのは、インタビューして知ってるんスよ?」

「まぁ……たしかに」

 ――ならもう、あえてそこにいたとしか考えられないんスよ。なんらかの理由で、そこにいなきゃいけなかったんス。理由はいくつか考えられるっスけど、まる子さんの鞄ちょっと拝借して漁ったら答えがあったっス。

「……なによ、その答えって」

 ――電源タップっス!


 自信満々なよしひとの声が響いた。


 ウチの頭にはてなが浮かぶ。

 言ってる意味がわからない。


 でも、隣では「あぁ」と小さな声が漏れてた。

 振り返ると、節子が嫌そうに眉を寄せてた。


「盗聴ってことね」

 ――そうっス! さすが節子さん、鋭いっス!


 よしひとは喜んで、節子とコミュニケーションを取り始める。


 ――多分、あっしらの近くにいたのは、電波の範囲の都合上っス。学生じゃそうハイスペックなものは買えないでスし。それに、運営なら三次審査で放送部のパソコンいじってても、不自然じゃないっス。

「なるほどね……ようやく合点がいったわ。あの子たちのやることにしては、手が込みすぎてると思ったのよ」

「ちょ待って! 置いてくなし! ウチにもわかるように説明して!」


 ウチはスマホと節子と交互に視線を振りながら訴える。

 すると、あー、と声を発してから、よしひとが電話口で答え始めた。


 ――えっと、りりあさんがいつも充電してた電源タップあるじゃないっスか。家庭科室の真ん中にあった」

「うん。最近なくなったアレね」

 ――あれがまる子さんの鞄から出てきたんス。

「は……?」

 ――それで、それを分解してみたら、盗聴器が入ってたんス。

「はぁっ⁉︎」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る