第47話 美少女JKモデル、ガチで三次審査にケンカ売る②
「目が小さくて太っている人? いいえ、違います。平安時代に美人と呼ばれていたのは、目が大きくて、痩せている人でした」
よしひとの作ったスクリプトは、この一週間で必死に覚えた。
暗記とかちょー苦手なのに、マジ頑張った。
話し方もみっちり指導された。
練習してるときは、こんなん意味あんのかよって思ってたけど、よしひとの演出は、たしかに効果があるみたい。
観客たちは、りりあがなにを話し出すのか、固唾を飲んで見守ってる。
「フランスでは、たった百年前までは『浮き出る肋骨』というあだ名が最高の褒め言葉でした。現代でさえ、いくつかの国では細い女性こそ美しいとされています。これは学校の先生が教えてくれない真実です」
ウチは袖の放送部に合図する。
手順通り、背後の大型スクリーンに『ルッキズム』という文字列だけが投影される。
「ルッキズム、という言葉を耳にしたことがある人もいるでしょう。日本語で言えば、外見至上主義。外見によってすべてを判断するという考え方です。美人だから性格もいいに違いない。ブスは性格も捻くれていてるに違いない……しかし、本当にそうでしょうか? では、百年前のフランスでは、ガリはみんな性格が良くて、デブはみんな捻くれていたのですか? ひっくり返せば、バカげていることは誰にでもわかるでしょう……」
段の下に並ぶ生徒たちと目を合わせて、ちょっと言葉を切る。
まだみんな聞いてくれているようだ。
ウチは、練習通り、わざと弱ったように声を落とす。
「この思想の最悪な点は、私たちの心に忍び寄って、自由を奪うことです。ブスだから、かわいい服は着てはいけない。ブスだから、好きな人に告白しちゃいけない。ブスだから、ミスコンに出てはいけない。そう自分で思い込んで、行動できなくなる……私はこの内側に潜むルッキズムが憎い。だから私はミスコンに出ました」
自然に、ウチの声に熱がこもってきた。
もうここからは、ウチ自身の怒りだった。
「目が大きいから? 鼻が高いから? 痩せてるから? そんなもんで、バカにされる筋合いはない! 好きなものを着て、好きなように生きる! そんな普通の楽しみを、どうして知らん奴らに奪われないといけないワケ⁉︎……ウチはこのミスコンで、絶対優勝する。んで、ウチは美人だって証明して、仲間たちに勇気を与える。だから、同じ気持ちの人は、最後までウチについてきて」
マイクを離す。
途端に、再びの歓声がワッと上がった。
会場はどよめき、最前列では泣いてる女の子も見えた。
これほど盛り上がったパフォーマンスは今まで一度もない。
ステージを去りながら、ウチの口は不敵に歪んでた。
ま、りりあちゃんにかかればこんなもんよ。楽勝楽勝。
ハケた先でウチをジッと見てた節子に、ウチは余裕綽々で手を振ってやった。
間違いなく、ウチはお前を超えた。
他の出場者が数人、パフォーマンスを終える。
いよいよ紗凪がステージに姿を現した。
三次審査最後の出場者だ。
緊張した顔で、歩き方もぎこちないけど、人の視線を怖がるような様子はどこにもない。
彼女は演台の後ろについて、マイクの電源を入れた。
「……エントリーナンバー四十二。生駒紗凪です。少しだけ、昔話をさせてください」
静かに話し始める。
彼女のアピールタイムは、自分の人生を話す予定だった。
いかに自分が理不尽な目に遭ってきたかを共有することで、怒りと同情票を得ようというのが、よしひとの作戦だ。
「私が容姿の問題に気づいたのは、小学生の時でした」
紗凪がチラッと袖の先の放送部に視線を飛ばす。
小さい頃の写真を投影することになっている……のだが、スクリーンは画像が出ない。
ウチも、紗凪も、観客も、不思議に思って待っていると、唐突にスピーカーから声が響き渡った。
それは、今までの人生でも聞いたことがないような、ゾッとする音声だった。
――みんなおはよ〜♡ うん〜、寝起きだよ〜。今日はね〜、ふふっ、なにしてほしい?
遅れてスクリーンに流れ出したのは、渋柿トメの配信映像だった。
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