第46話 美少女JKモデル、ガチで三次審査にケンカ売る①


 三次審査の会場も、体育館だった。

 ただ、ランウェイのような大掛かりなセットはなく、壇上に大型スクリーンが出ているだけ。


 舞台袖で並んでるのは、二次審査を勝ち抜いた、学内でも選りすぐりのデブたち。

 彼女らは順番に、このまま人間たちの前に出ていって審査されるってワケ。


 ウチは最後方で壁に寄りかかりながら、つい笑ってしまった。


 なにこれ、牛の品評会?


「わかってたけど、ここまで来た奴ら、全員ブス揃いで笑うわ。どこがいいんだか」

「りりあちゃん……お願いだから刺激しないで……」


 紗凪が恐怖に顔を引きつらせながら嗜める。


 まぁ、怖がる気持ちも今回はわかる。

 居並ぶ候補者たちの間には、二次の浮き足だった感は一切なかった。

 空気は殺伐として、袖で会話を交わすのはステージ運営を任されてる放送部だけ。


 学校を代表する美人たちの中で、さらに選ばれるのはたった五人。

 ファッションショーの真似事だけしたい記念受験組とは違い、彼女たちはガチで本選を獲りにきてる。


 見栄と、意地と、勝ち気と、承認欲求が強い女たちによる、票取り合戦。

 負けず嫌いの彼女たちが放つオーラは、殺気に近い。


 ブスは嫌い。

 だけど、この真剣な雰囲気は嫌いじゃないよ、ウチ。


 MCの一声で、開会が告げられ、最初の生徒が前に出る。

 彼女は軽く自己紹介すると、放送部が流し始めた曲に合わせ、ダンスを踊り始めた。


 ウチは思わず目を見張った。経験者なのだろう、驚くほどキレがある。デブなのにすごい。


 順番は完全にクジで決められてる。出番が一発目なのは不憫だが、彼女の必死さは充分伝わった。やっぱ、熱量は二次の比じゃない。

 でも、やっぱりこの回の一番目は、どうしようもなく運が悪かった。


 次の演者が、千代田節子だったからだ。


 千代田節子がステージに出た瞬間、会場が爆発したかと思った。黄色い声で耳が痛いくらい。

 彼女は前に詰めかける一般生徒たちに微笑むと、楽器を演奏すると言って、ステージ横のグランドピアノに近づく。


 会場がしんと静まり返る。


 下手だったら袖から大笑いしてやろうとウチは壁にもたれて聞いてたけど……響き始めた音を聞いて諦めた。


 ちゃんと上手いのだ。

 マジで鼻につく女である。


 その後、候補者のアピールはテンポ良くこなされていき、最後尾付近のウチの番も、すぐに近づいてきた。


「頑張って……!」


 袖の暗闇で、紗凪がガッツポーズする。

 彼女の出番はウチより後。アピールが終われば反対袖にハケるので、一旦お別れ。


 ウチは答えの代わりに手を振って、舞台裏の暗がりからステージへ向かう。

 頭では自信があるのに、心はどこか不安になってく。

 指先が冷たくなっているのを感じる。


 人前に出るときは、いつもこうだ。

 理由はわかんないけど、怖さに押し潰されそうになる。


 それでも、ウチは胸を張って明るい舞台に出た。


 すると――二度目の爆発が、ウチを迎えた。


 大歓声だった。

 人数こそ敵わないものの、声援の大きさで言えば、節子さえも超えてる。


 ウチは目を丸くして、同時に、確信した。


 本選出場は、これで決まった。

 あとは気楽に、やるべきことをこなせばいいだけだ……!

 

 ウチはマイクを手に取ると、壇上のスライドを確認してから、ゆっくりと読み聞かせるみたいに演説を始めた。


「平安時代。どんな人が美人と言われていたか、皆さんはご存知でしょうか」




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