第44話 美少女JKモデル、ガチでケンカ売られる③
目を凝らすと、葉っぱの奥から人の姿がはみ出てる。
近づく前に、その影は恥ずかしげに立ち上がった。
紗凪だった。
手にはゴミ袋を携えて、セーターには葉っぱがたくさんついている。
ゴミ回収場所に捨てにいくところだろうか。
「あの、ごめんね、盗み聞きみたいになっちゃって……」
彼女は体全体で申し訳なさを伝えるみたいに縮こまった。
「出るタイミングなくしちゃって……」
「いいよ別に。大した話じゃなかったし」
ウチは肩をすくめる。
本当、この世界で安心できるのは紗凪しかいないわ。
「ミスコン、出ないほうがいいって言ってたね、千代田さん……」
紗凪は小さく呟く。
「はっ! あんなんでやめんなら、最初から出てねぇっつーの」
「うん……わたしもそう思う。少しおせっかいだね、千代田さんは」
紗凪が笑う。
その雰囲気に、ウチはなんとなく呑まれてしまった。
紗凪、なんか随分、たくましくなったな……?
「でも……千代田さんって、やっぱりいい人なんだろうね……」
「え……はぁ⁉︎ んなワケねぇじゃん! アイツ今、ウチらを降ろそうとしたんだよ?」
「そう、かな……あれは多分、本当に警告してくれたんだと思うよ。わたしたちが危ない目に遭わないように」
「はぁ? 意味わからんし。なんでカースト上位のアイツがそんな得のないことすんのよ」
ウチは頭に浮かんだ反論をそのまま口にする。
すると、紗凪は首を傾げた。
「それは……得のないことをする人だからなんじゃないかな……立場がどうでも優しい人も、きっといると思うし……」
ウチはため息をついてしまった。
「世間知らずだなぁ、紗凪は。カーストトップの女がそんなまともな考えしてるワケないっしょ?」
「そうなの?」
「そうだよ。ああいうんは、人との付き合いも損か得かでしか考えてねぇから」
「りりあちゃんも?」
不意に飛んできた問いかけに、思わず口ごもってしまう。
紗凪は目をイタズラっぽく細めて続けた。
「りりあちゃんも前は学校で一番だったんだよね? 得だったから、わたしを助けてくれたの?」
「それは……違うけどさ……」
「ね。そういう人もいるんだよ」
紗凪の柔らかい笑顔に、ウチはぐうの音も出なかった。
やられちった。
二次審査を乗り越えた紗凪には、自信が満ちてた。
ウチにはそんな彼女の姿が、眩しく見えた。
◇
紗凪と別れて教室に帰りついたあと。
帰り支度をしようとして、机のなかに手を突っ込むと、指先にチクッと痛みが走った。
「イタッ……んん?」
引っ込めると、指の腹に小さな赤い傷がついてる。
中を覗くと、金色のものが散らばってた。
……画鋲だ。
そして、一枚の印刷用紙が中からヒラリと舞い落ちた。
「んだこれ……」
二つ折りになったそれを屈んで取り上げる。
そこには、パソコンで短い文章が印字されてた。
――三次選考を辞退しろ。無視すれば悲劇が起きる。
ウチは顔をしかめてしまった。
呆れた。
これ以上ないくらい、わかりやすい脅し文句だ。
幼稚すぎ……小学生かっての……
節子の仕業か?
それとも他のブスか?
まぁ、誰でもいいけど、どうしてもウチを舞台から降ろしたい奴がいるらしい。
「ねぇ、掃除してっとき誰かウチの机に来てた?」
前の席の大デブ男にきく。
「え? いや、ごめん見てない」
「そ。あんがと」
ウチは教室の前方まで行くと、脅迫文をクシャクシャに丸めてゴミ箱に突っ込んだ。
舐められたもんだ……ウチがこんなもんに負けるワケねぇだろ。
心にデカくて黒い炎が燃える。
それは、下剋上の決意だった。
ぜってー本選出て、全員潰してやっからな……
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