第43話 美少女JKモデル、ガチでケンカ売られる②
千代田節子だった。
「……んだよ、お前もケンカ売りに来たの?」
ウチがメンチを切ると、彼女は軽く鼻で笑う。
「開口一番、威嚇しちゃうのね。あなた、お猿さんなの?」
「あぁ?」
プッチーン。
頭のなかで血管の切れる音がする。
コイツ、いつもたった一言で、ウチを怒らせやがる。
ウチをキレさせる天才か、おい?
「どういう意味だよ……」
「言葉以上の意味はないけど。あ、お猿さんにはもっとわかりやすく言わないとかしら」
「口開くたび猿猿言うな! なんの用だよ!」
「別に。通りかかったから声かけてみただけ」
「じゃあどっか行っちまえ、ヴァ〜〜〜カブ〜〜〜ス!」
ウチはプンプンしながら彼女の横を歩き去ろうとする。
なにアイツ……わざわざウチをイラつかせるために話しかけたワケ……?
性格歪んでんだろ……
「……気をつけなさいよ」
通り過ぎ様に、声をかけられた。
ウチは横目で睨みつける。
「なにをだよ」
「今のあなたは目立ちすぎてる」
「……で? いっぺんに言えよ」
「たくさんの人間の恨みを買ってる。綱渡り状態だわ」
「……はぁ、綱渡り? イミフなんだけど。つか、別に買いたくて買ってるわけじゃないし。向こうが勝手に売りつけてくるだけじゃん」
「山崎さん、あなたは相変わらず容姿の力を舐め過ぎてる」
彼女がウチに向けた視線は、鋭かった。
「今、この学校には、あなたを中心にあらゆる感情が渦巻いてる。注目を利用してるつもりで、いつの間にか制御ができなくなることだってあるわ」
「……なにが言いてぇの? 猿にもわかるように言ってもらえます?」
「ミスコンはできるなら、出ないほうがいい。必ず痛い目に遭うもの。私なら辞退するわね」
「はぁ〜??」
ウチは首を前に突き出して、節子の両目を覗き込んだ。
正気か、コイツ?
「ここまで来てウチがやめるわけないじゃん⁉︎……あ、なに? もしかして、ウチに負けるのが怖くなったとか? だから戦う前に降ろそうとしてるワケ?」
「その体型でどうしてそんなに自信があるのか、未だに理解できないけど……」
節子は救えないとばかりに目を上に向けてから、
「私にもプライドがあるからあえて言うけど、負けるなんて夢にも思ったことないわ。あなたは優勝できない。私がいるからね」
「なら、正々堂々かかってこいよ。くだらねぇこと考えてねぇでよ」
「……やっぱり時間の無駄だったわね、わかってたことだけど。私、忠告はしたからね」
「はいはい、ありがとさん」
彼女は勝手になんかを諦めると、ウチに背を向けて去ってく。
ウチはそんな相手の気持ちを想像した。
平気なフリしてっけど、どうせ心の中は恐怖でいっぱいなんだろな。
思いがけないとこから人気者が出てきたもんだから、怯えてんだ。
カースト上位の女ほど、自分の地位が揺らがされそうになったら、姑息な行動をするもんだから。
ウチはひとつ舌打ちする。
イライラが湧き上がってくる。
さっきのヤツらといい、不良どもといい、節子といい……
これだからブスは嫌いなんだ。
見てるだけで、イライラしてくる。
見た目も悪けりゃ、性格も悪い。なんの価値も与えない。
やっぱ、ブスに生きてる価値なんかねぇよ。
「へくちっ……!」
校舎の先の生垣から、愛らしいクシャミが聞こえた。
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