第23話 美少女JKモデル、ガチで唐揚げスパートする②
その日の午後をたとえるなら、ウチはまるでフォアグラ作らされる鳥みたいだった。
いや、鳥のほうがもっといいものを食ってる気がする。
よしひとは解凍した茶色の暴力を、昼休みすべて使って目一杯食べさせたあと、五時間目のあとにも皿をクラスまでやってきて食べさせ、これで終わったろと思った六時間目のあとにも、
「ラストスパートっス!」
と言って、詰め込んできた。
おかげで、放課後になる頃にはウチの腹は爆発しそうなくらいパンパンだった。
こんなに腹一杯になったのは、小三の回転寿司以来である。
「うぷ……」
ウチは、前屈みで家庭科室へ向かう。
今、少しでも刺激されたら出る。間違いなく出る。
唐揚げが喉まで詰まってんのを感じながら階段を一段ずつ慎重に降りてた、そのとき――
「あ、例のイキリブスじゃん」
絶対に会いたくない女たちと鉢合わせてしまった。
階段の下にいたのは、節子の取り巻きの不良連中だった。
ガチ最悪……
彼女らのひとりのぶりっ子が、新しいオモチャを見つけた子供みたいに手を合わせる。
「わっ、自称モデルの人ぉ〜! ミスコン出るんだってぇ? その勇気マジすごぉい。どっから湧いてくんの〜?」
「お前、節子潰すとか言ってたらしいじゃん。生意気言ってんじゃねぇよ。その前にウチらがお前のこと潰そか?」
真ん中のサラッとした黒髪デブが、小さな目を怒りに染めてる。
ウチは冷や汗を流した。
変に逃げたら絶対追ってくるし、今の重い腹ではすぐ追いつかれる……
「なんか言えよ。つか、なんでそんな前屈みなん?」
「あ、なんかぁ、休み時間のたびにめっちゃ唐揚げ食ってたらしいよ。一次の体重足りないんじゃね?ってみんな笑ってた」
ぶりっ子の余計な言葉に、サラッとデブの目が怪しく光る。
「……へぇ」
「……!」
ウチが逃げ出すより、不良がウチの手を掴むほうが早かった。
「ガリは大変だなぁ。同情するわ」
彼女はゾッとするような汚い笑みを浮かべながら、ウチの腹をひと押し。
「はぅ……!」
ウチの腹は、一気に氾濫危険水域を超えた。
慌てて階段真横のトイレに駆け込む。
後ろから、甲高い笑い声が響き渡るのが耳についた。
アイツら……いつか絶対殺す……
◇
「えー出しちゃったんスか……なんて言うと思ったっスか⁉︎」
今日のよしひとは、やたらと声がデカい。
不本意にも軽くなった体でたどり着いた家庭科室で、仲間たちに起きたことを報告すると、よしひとはなぜか胸を張った。
「なら、プランBに変更っス!」
「もうなんでもいい……」
今日一日、散々な目に遭ったウチは、もうよしひとのテンションについてく元気もない。
「プランBはシンプルにズルなんで、あんまりやりたくなかったんスけど」
と、彼女がクーラーボックスの底から取り出したのは、一枚の黒いブラジャーだった。
「ブラがクーラーボックスから出てきた……」
紗凪が呆然としてる。
「ただのブラじゃないっス! 見てくださいっス、ココ!」
よしひとがプラカップを指さす。
その内側にはポケットがついてて、なかにはパッドの代わりに鈍い銀色をしたなにかが無理やり詰め込まれてた。
カップの前後にはデカい磁石もくっついてる……
「世の中には色んな需要があるもので、このブラは胸を大きく見せるために詰め物が入れられる構造になってるんス」
「な、なんて特殊な世界……少し分けてあげたい……」
紗凪が自分の乳を抱えて震える。
「で、屋上でりりあさんたちと話したとき、あっしに神の啓示が降りてきたんス。もしりりあさんの体重が届かなかったら、ここに重しとして鉄板を入れよって!」
よしひとがブラを叩くと、コンコンと下着とは思えない硬い音が鳴る。
ウチも紗凪も、よしひとがなに言ってんのか、完全に理解した。
ウチに着ろって言ってんだ、この鉄板入りブラを。
「測定時は体操着に着替えまスし、バレずになにか仕込めるとしたら、下着くらいっスから」
「相変わらずセンスがぶっ飛んでんな……」
「それほどでも」
「褒めてねぇよ」
しんのすけかお前は。
もうなんでもよくなったウチは、ひとつだけ質問した。
「……ところでさ、なんでクーラーボックスのなかに入れてたのよ。ふつーに鞄にいれりゃいいじゃん」
「ひんやりして気持ちいいかなと思いまして」
「凍りつくわ」
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