第24話 美少女JKモデル、ガチで一次審査にケンカ売る①


 一次審査会場になってる保健室前は、太い囁き声に満ちてた。


「え待って……すごいブスがいんだけど……!w」

「例の人たちだよ……ウワサの、ほら……」


 行列を作ってウチらの噂話をするのは、この学校でもとりわけ図体のデカい女たち。

 全員、ミスコンにエントリーするような図々しさを持つカースト上位者どもだ。


 ウチはそんなデブどもに挟まれながら、陰口を大人しくきいてた。

 暴れてブラになんかあったら困るからだ。

 

 ――絶対ケンカとかしちゃダメっスよ……! 磁石でも留めてるっスけど、普通に壊れるんで!

 

 家庭科室でよしひとから受けた忠告が頭に響く。


 それにしても……

 

 ウチは、肩に食い込むブラ紐をさすってため息をついた。

 今、ウチの両肩には、人生で感じたことのない重量がのしかかってる。

 鉄板ブラの重量は、片乳一キロずつ。

 つまり、今のウチは実質巨乳ってワケ。


 最初こそ「これが乳……」って感動したけど、今はその重さにウンザリしてた。

 たしかにこんなダル重なの毎日ひっさげてたら、肩凝るわ……

 今までマウント扱いしてたの、ほんのすこーし反省……


 審査開始後、保健室は列に並ぶデブ女子を呑みこんでは、サクサク吐き出す。

 それでも、まだ前に三十人くらいはいた。


「つかさぁ、思ったよりエントリーするヤツ多いのな。全員自意識過剰じゃね?」


 ウチが鼻で笑うと、前に立つ紗凪がシーっと唇に指を当てて振り返った。


「山崎さん声落として……! あの、二次審査のために出るって人が結構いるんだよ。二次はモデルウォークだから、みんな憧れてて……」

「あぁ、だからか。たま〜にマシな顔のやつもいるもんな」


 重い肩を叩きながら言う。

 いい加減、並ぶのも飽き飽きしてきた。欠伸を連発する。

 その後も紗凪と時間を潰しながら、あー早く審査終わんねぇかなー、なんて再び大欠伸をかましたとき、前に並ぶ人間たちが急にざわついたのに気づいた。


 保健室から、千代田節子が出てきたのだ。

 審査が終わり、いつものように鼻につく優雅さを振り撒きながら、列の横を歩いてく。


「アイツウザ……」


 ウチの言葉じゃない。

 列に並ぶ誰かが、呟いてた。


「優勝はまた千代田さんで決まりでしょ」

「プロが出てくるのって、なんかズルくない……?」


 ひそひそ声が、列のどこからともなく上がってくる。舌打ちまできこえる。


 悪意のなかを高貴に去っていく節子を眺めながら、ウチは首を傾げた。

 別にミスコンにプロもクソもないと思うけど、とはいえ遠慮しろよと言うヤツが出るのもわかる。


 んなもんウチでも予想つくのに、なんで出んだろな、アイツ。

 やっぱ、性格悪いんだな。



   ◇



 そのあとさらに待って、ようやくウチが保健室に入る番が来た。


 部屋の真ん中には、古い金属感満載の体重計がでんと置かれてて、それに生徒たちが流れ作業のようにのせられてた。

 保健室の見た目が変わってないように、体重計が古めかしいのも、元の世界と一緒だ。


 体重計の反対側には、保健室の先生と、実行委員の腕章をつけた生徒が一人いた。

 メガネの女で、ペンとボードを持ってなにかしらを書き込んでる。

 委員長っぽかったので、ウチはそいつを心のなかで委員長と名付けた。知らんけど。


 ウチの前に、紗凪が審査に挑む。ガチャンガチャンと派手な音を立てて、体重計の踏み台が沈む。


「五十一・三キロ」


 保険の先生が呟くと、委員長がすぐボードに書き記した。

 合格したと言うのに、紗凪が肩を落として去っていった。

 

 いよいよ、ウチの番だ。


 委員たちの視線を受けながら、体重計の上に立ったそのとき――胸に、違和感を覚えた。


 ひんやりした硬いものが、ズルズル下に移動してる感覚。

 ブチブチッというなにかが裂ける音。


 ウチは慌てて両腕で押さえ、体重計から飛び降りた。


「……? どうしたの?」


 保険の先生が尋ね、実行委員が不審そうに紙から目を上げる。

 冷や汗が脇を伝ってく。


「ちょ、は、腹痛くて……あの、すいません、ちょっとトイレ……!」


 ウチはぎこちなく微笑み返して、保健室を飛び出した。



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