第22話 美少女JKモデル、ガチで唐揚げスパートする①


「もう……やだ……唐揚げ……せめて茹でて……皮は剥いで……――ハッ!」


 体を起こすと、そこは自室のベッドの上だった。


「……夢か」


 額の汗を拭う。


 唐揚げの波が襲いかかる夢だった。

 思い出すのも恐ろしい総カロリーだ……


 枕元の時計に目をやる。

 時刻は朝七時。


 一次審査当日だ。


 ベッドから這い出たウチは、脱衣所まで行って鏡に自らの姿を映す。


 よしひとの指示に従って、鉄のプライドを捻じ曲げて挑んだこの期間。

 りりあは、少しずつ、しかし着実にデブってた。


 首。二の腕。腹周り。

 一見するとわからんけど、触れればたしかにフワフワ感が増してる……


 あんなに憎んでた脂肪が全身にベトベトついてる事実に、ウチは泣きたくなった。

 まさか、自慢だったモデル体型を自分で台無しにする日が来るなんて……

 痩せんのはツラいのに、太んのはこんなにも楽。

 人間ってなんなん?

 痩せんのは数ヶ月かかって、太んのは一瞬なのマジなんなん?

 一周回ってもはやチルいわ。


 ウチは変わり始める体を観察したあと、恐る恐る、体重計にのった。


 自分を壊す努力をした。

 必死に食べて、必死に寝て、必死にだらけた。


 その結果が、今、数字になって現れる――



   ◇



「で、何キロだったっスか?」


 昼休み。

 集合した家庭科室で秒できいてきたよしひとに、ウチは疲れた顔で告げた。


「四十八・四キロ。全然足りてなかったわ……」

「さすがに日数が短かったよね……」


 紗凪の慰めには、同じ努力をしてきた先輩としての重さがあった。

 

「紗凪は? ダイエット頑張ってたけど、五十キロ切れたの」

「五十一……あと一キロだった……」


 青い顔をした彼女は、無念そうに首を振る。

 紗凪は、ウチとは反対に、この期間で見るからにゲッソリとした。

 元々痩せてるのにさらに減量しようとするもんだから、体調もバリエグそう。


「あぁ……ご愁傷様」

「でも、ここからさらに水を抜けば……」

「ひとりだけボクサーみたいな挑戦してんね……もう体壊すからやめな」

「そもそも紗凪さんタッパあるから、りりあさんみたいにはいかないっスよ」

「うぅ……」


 ウチらからの言われように、紗凪は頭を垂れた。


 ていうか、元々ウチが勝手にエントリーさせたのに、ちゃんとこの集まりに来るんだから偉いよね。

 嫌ならやめればいいのに。

 なんで来んだろ、この子。


「つーことで、ウチはミスコン一次落ちだわ。あー、クソ……ぜってーバカにされるじゃん……」


 ウチは天井を見上げた。

 不良どもに笑われる未来が簡単に想像できる。マジ下げみ。

 やっぱ大人しくしとけばよかったかな……


「なに言ってんスか! 残り一・六キロなら全然オッケーっス!」


 よしひとだけが、明るかった。


「……なんでよ。五十キロ超えなきゃ出れないんでしょ? 全然足りないじゃん」

「だから、超えればいいんスよ! 二キロ弱なら、お腹のなかで稼げるっス!」

「うぇ……それってつまり……」


 嫌な予感、再び。

 そんで、実はウチはずっと気になってたんだ。

 なんでよしひと、クーラーボックス肩から提げてんのかな、って……


「つまり、放課後の測定までに、これを詰め込めるだけ詰め込むっス!」


 彼女が開いてみせたその冷えた箱には、冷凍唐揚げ十パックが敷き詰められていた。

 ほらまたこれだよも〜。バイブス下がりすぎて地下に埋まっちゃってるよ。


「じゃあ、今からチンするっスから、全部食べてくださいっス。あ、ちなみに今日はトイレ行っちゃダメっスよ。もったいないんで」


 彼女は最後にとんでもないことを言って、レンジ前へ早足で向かう。


「帰っていいか……」

「山崎さん、頑張って……」


 紗凪の控えめなガッツポーズが心に沁みた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る