第21話 美少女JKモデル、ガチで初めてのファンができる②


「うぉおッ!」


 驚いて姿勢を戻した先。

 そこには、初対面の女生徒が立ってた。

 ボブカットの髪を屋上の風に晒して、ウチの隣でニコニコしてる。


「誰、アンタ……?」

「あはっ! 二年一組の乙田まる子ですっ! よろしくね、山崎さん!」


 ニッコリと元気に挨拶する。

 彼女は、この世界では珍しい細身な体型だったけど、雰囲気が女子で全身から愛らしさが滲んでた。

 ブスだけど友達が多そう。

 この世界に来て初めて見るタイプだ。

 

 呆然とするウチに、彼女は笑みを浮かべながら不思議そうにするという器用な表情をしてみせる。


「……?どうしたの?」

「な、なんでウチの名前……」

「あぁ! アタシ、ミスコンの実行委員だからさっ! 二人のことどっちも知ってるの! 山崎さんに、生駒さん!」

「じ、実行委員さんが、なにか用ですか……? あ、もしかして、ブスすぎて書類で失格とか……」


 紗凪が期待げに上目遣いで実行委員の女を見上げる。

 でも、


「あはっ! それはないから安心して。ミスコンは全生徒に開かれてるから!」

「そ、それはよかったです……」


 紗凪がへこんでる。


「んじゃ、なんの用なん?」


 ウチがラスト白米を口に運びながらきくと、まる子がイタズラっぽく指を振った。


「アタシ、広報担当だからさっ! 今年のミスコンには『ヤバいの』が出るってウ・ワ・サ! 確かめようと思って!」

「へぇ、どんなのが出んの?」

「わたしたちのことだよ、山崎さん……」


 純粋に尋ねるウチに、紗凪が代わりに答えた。


「はぁ……⁉︎ ウチらのどこがヤバいんだよ!」

「おやおや、自覚なしとは恐れ入ります。あと米が飛んでおります」


 乙田まる子は制服のスカートをパッパと払う。


「だって、これはもう事件だもんっ。失礼だけど、学校で一、二を争うブスがミスコンに出場するっていうんだよ? 当然みんな気になるよ!」

「学校で……」

「一、二……」


 ウチと紗凪は思わず一緒に呟いてしまう。

 ウチら、ツートップだったのか……


「あえなく初戦敗退か、それとも大健闘か! これは誰も放って置けないよ! 広報担当としてはネタが尽きなくてとっても助かるっ!」

「別にお前らのために出るワケじゃねぇけどな」


 ウチがブスッと返す。


 そのとき、まる子の胸ポケットに入ったスマホから、短い通知音が鳴った。

 彼女は画面をチラッと確認すると、薄いマニュキュアが塗られた指で返信しながら、キョロキョロと辺りを見渡す。


「で、二人はいつも屋上で作戦会議してるの?」

「いや、いつもは家庭科室」

「そうなんだ! じゃあさ、山崎さんたちが一次受かったらお邪魔するねっ! 広報誌でインタビューする気満々だから!」

「いいけど。え、それ言うためだけにわざわざ来たん?」


 ウチはちょっと不思議に思う。

 屋上来るのは、階段を登ってこなきゃならんのでふつーにダルいのだ。


 すると、目の前の実行委員は、ちょっと困ったような顔をみせてから、ウチらにコソッと耳打ちした。


「……アタシも見ての通りブスだからさ。実は普通に応援してるんだよね、山崎さんたちのこと。これ、内緒だよ? 一応、実行委員のメンバーが推してるってバレると、面倒だからさ」


 そう言って体を起こすと、


「あはっ! じゃあ、別件で呼ばれたからもう行くね! またねっ!」


 彼女は元気に手を振って、屋上を出ていった。


「……なんつーか、変なヤツだったな」


 本人がいなくなったので、素直な感想を述べる。


「でも、山崎さんのファン一号だよ、この世界での」


 紗凪の思いがけない一言に、ウチは少し固まった。


「……あぁ、そっか」


 まる子の言葉をどこか懐かしいと思った理由が今、掴めた。


 ウチ、この世界に来て初めて『応援』されたんだ……


 前の世界ではちょっと迷惑なくらいしてもらってきたから、ひとつの『応援』がこんなに心強いものだったなんて、知らなかった。


 まる子が出ていった扉を眺めながら、ウチは自分の心が少しだけアガってるのに気づく。

 弁当箱に残った最後の唐揚げを、一息に口のなかに放り込んだ。






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